いずみたつや

エンパイア・オブ・ライトのいずみたつやのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
5.0
映画は光。宝石のようなネオンと花火の瞬きで登場人物を飾り、穏やかな日差しで彼らを優しく包む。しかし光は、人が内に秘めた狂暴な側面をも浮かび上がらせる。

“光の魔術師”ロジャー・ディーキンスの見事な撮影の連続に終始うっとりさせられます。

映画は光。暗闇に光を照射して観るという性質がなによりの証拠です。どんなに優れた作品だろうと光がなければただの暗闇でしかないことを映写技師の熟練の腕が教えてくれます。1秒24コマの画像と光の明滅は、魔法のように心の闇をも打ち消す。

主人公は「映画を観ない人」として登場しますが、そこに象徴されるのは人生に向き合うことができなくなってしまった女性の姿。だからこそ「映画を観る」というだけのシーンが大きな意味を持つし、驚くほど心を動かすものになっているのだと思います。

彼女と偶然出会った青年は、言うまでもなく彼女の人生を照らす光です。そして彼女自身が見せた勇気も、きっと誰かの光になるだろうと思わずにはいられません。

映画を観終わる頃には、自分は誰かを照らす光になれているのだろうか……などと考えてしまったことにむず痒さを覚えると同時に、自分のなかの純粋な部分に触れられたような気がして、なんだか嬉しくなりました。今後もずっと大切にしたい作品です。

信じられないほど美しいロケーションにも注目で、イギリスのマーゲイトに今も現存するという映画館はまさに「光の帝国」。いつか行ってみたいです。