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TAR/ターのkamakurahのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.0
緊張感途切れることのない2時間半、ただただケイト・ブランシェットに圧倒される一本である。仕上がりも芸術度高く、脚本、監督、製作をひとりで担ったトッド・フィールドの意気込みと気合いを体感できる。詳しい説明は省かれ、物語の進行を通して理解すべき細部が精密である。コロナ禍のなか、時代を牽引する女性指揮者の過敏にして繊細な精神世界が、マーラーやエルガーの抒情味豊かな旋律に彩られ、現実にかかる英才がいるなら、こうだろうな、と説得力豊かで、脚本の質の高さに感心させられる。その意図を正鵠を射てリディア・ターとして具現化するケイト・ブランシェットの一挙手一投足に魅了され、映画らしい映画の奥深さを、うっとりと堪能することができる。葛藤、苦悩、焦燥、狂気が研ぎ澄まされた映像により描出される。ヴィスコンティ、レニーすなわちバーンスタイン、カラヤン、アバド、フルトベングラー、マーロン・ブランド、レバイン、M・T・トーマス、グレン・グールド等々言及される実名が、すべからくぼく個人の嗜好に重なっているのも嬉しい。ラストの再起を期するベトナムでの状況をもう少し説明して欲しかった。
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