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PERFECT DAYSのkamakurahのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.5
 昨秋の東京国際映画祭(tiff)オープニングを見逃して、そのまま機を逸していたのだが、昨夜の日本アカデミー賞主演男優賞を祝し、米アカデミー賞発表直前の、このタイミングで12月公開ながら今なお劇場公開中の同作を、ようやく鑑賞。周辺の評価高く、満を持しての思いで足を運んだが、個人的には、もうひとつ。深く刺さるものがなかった。
 昨年、小津安二郎生誕120周年ということで小津を敬してやまないヴィム・ヴェンダースがtiffの審査委員長を務め、関係イベント多数催されたことから、本作がある種オマージュになっていたことは承知していた(『東京物語』の笠智衆扮する主人公が同じく平山だったこと、すっかり忘れていた)。しかし、それにしても何故公衆トイレ清掃員でなければならないのか。その初発が理解できなかった。鑑賞後、本作がそもそもは渋谷区とTOTO、UNIQLOとが手掛けたプロジェクトのイメージフィルムだったと知り、納得した次第。それでも、ここに描かれたものを、perfectdays、と素直に受け止めることは出来ない。
 映画そのものの仕上がり感からしても、役所広司を起用して先に西川美和監督が佐木隆三の原作を映画化した『素晴らしき世界』に重ねないではいられず、カンヌの男優賞に文句を言うつもりはないが、日本アカデミー賞は、鈴木亮平で良かったんじゃないかな、と思うし、同監督賞ヴィム・ヴェンダースはないよな、という感を払拭できない。是枝裕和もしくは努力賞込みで森達也にあげて欲しかった。
 脚本はもっと主人公のもとに家出してきた姪の内奥や、結末においた石川さゆり・三浦友和扮する元夫婦の事情について踏み込んで欲しかった。田中泯の扱い方も、いかにも思わせぶり過ぎ。フォークナーの『野生の棕櫚』を読ませてるなら、かの名高い結末部分についてひと言触れて、作品の近似性を印象づけてもよかったのではないか。
 蛇足ながら、麻生祐未演じる主人公の妹が家出した娘を迎えにきた際、好きだったでしょ、と手渡すのが鎌倉紅谷の今をときめく「クルミッ子」で、主人公の実家が鎌倉らしいことが仄めかされていた。これも多分ヴェンダースの小津と鎌倉の結びつきへの献辞かと思われるのだが、だとしたら本作デビューで好演の中野有紗扮する姪が、隅田川の流れゆく先に海を感じるシーンの説得力が消し飛んでしまう。おそらく彼女は鎌倉在住なら海と親しく生活しているはずで、伯父のもとでの日々で芽生えた微かな憧憬感と結びつかない。ただ、これはいささか過ぎた深読み。故に蛇足追記としたい。
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