はる

TAR/ターのはるのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ずっと「この映画は何を言いたいんだ?」と思ってしまった。最後まで見終わって「キャンセル・カルチャーはよくない!ってことを言いたいのか…?」と思った。これは私がターの言動にパワハラとかセクハラを感じなかったのもあってそういう感想に至ったのだが、いろいろ感想とか批評を漁っていると、ターの言動はかなり問題だという意見で占められていたので、違う気もしてきた。そしてターの言動に問題を感じられない自分は大分やばいんだろうな…と思って不安にもなったしかなり落ち込んだ。

でもやっぱり、ターの言動が正しいのかどうかは、結局分からない構成になっている気はする。クリスタを意図的に潰したのか、本当に問題があるのでよくないと答えたのかが分からない。チェロのソロ奏者を決めるプロセスも、副指揮者を解任するのも、ちゃんと理由があるように見えたし、筋が通っているように見えたし…。でももう自信がない。何せ、大学の授業でのターの振る舞いの、何が悪かったのかが分からない人間なので…。

それにしても音楽大学に進んでおいて「バッハは性差別者だから学びたくない」は”ない”だろう…と思った。ジュリアードに進学した理由も結局答えられてなかったし。

ターの最後についてはハッピーエンド、とまでは云わないが一抹の希望のように見えた。彼女は結局のところ、音楽を愛しているということは真実で、愛した音楽を手離さず、しかもそれがどんな舞台であれ同じような熱量で取り組んでいるというのはよかった。

批評とか解説の中で「この映画は時間を支配していたターが支配できなくなる」という主旨の文章が出てきて「なるほど…」となった。確かに序盤は濱口竜介の映画並みに、二人だけでの会話が延々続くシークエンスがあったけど、終盤になるとそういうシークエンスはない。

好きな俳優やアーティストが差別的な思考の持ち主であることが判明すると、いつも悩んでいる。彼らのパフォーマンスが好きだが思考や人となりは好きになれない、ということは時々ある。そのとき、出演作品や生み出した作品を無視するべきなのかどうか、いつも考える。この映画を観て、そのことを思った。
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