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TAR/ターのmsyのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

すごい緻密な脚本だった。ターえぐいよ…!オープニングにスタッフロール持ってくる強情さに襟を正し、バックにはリディアが一緒に過ごした民族の歌声。ここからリディアの業を追いかける展開に釘付けになり最後のモンハンのコンサートで完璧に締まった。えぐいよ…!

リディアが音楽の神様にご指名を受けた神の子でありながら、人間として暮らす以上感情や人間関係や雑務に関わり生じる齟齬が我々凡人にも分かりみ…
男性を主人公に破滅していく選ばれし者の話はいくつもあるが、それが単にレズビアンの女性に置き換えられただけでなく、多様性の看板を軽々と越えてリディア個人の話になってるのがすごかった。彼女の人生がきちんと伝わってくる作りだった。もちろんあとで解説を見てやっと分かるところもあった、ただそれだけ設定が練ってあって膨大な情報量と作り手の熱意が滲み出てた。(同日に見たフリークスアウトでもどかしく思った部分が全部あった)

予告編を見て、孤高の天才が命を削って芸術性を爆発させる話かなーと想像してたのだけど、そんなものではなかった。大音量の指揮の場面はごく一部で、あとは音楽を聴かせる場面などない。リディアの抱える荷物の話に終始してる。天才肌の人と接する時は、消耗して潰れる前に自分の意思を伝えなきゃいけないですね。褒めつつ問題をはっきり言う。勉強になった。リディアの音楽に何の興味も価値も見出さない隣人のくだりもうまかった、その時リディアがヤケになってアコーディオン弾き語りするところは若干いらんかな…とは思ったけど、一瞬でリディアが傷付いた事が分かるし、それでも音楽を追いかけるリディア、ひいては音楽家の尊さが最後まで一貫して描かれててこちらに伝わってくる。

ピカソの女性遍歴が再考され彼の作品の価値を下げている昨今、バッハにも3人の妻がいてそこを掘り下げるとボイコットする人もいるんだなと知ることができた。私は死ぬ時聞きたいプレイリストの中にバッハもベートーベン も入ってる、性加害のニュース渦中のジャニーズにも推しグループがある、優れた作品が全て完璧な人から生まれるとは限らない、情報をどう選択するかますます聞き手が問われる時代になってる。SNSで吊し上げることもできるけれどいい形とは思えない、伝え方もみんな努力して考えよう。とはいえ、どの情報が本当なのかって分からないのでネットの浅瀬でチャプチャプしてるだけの自分を恥じることになった、そういう映画だった。
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