MotelCalifornia

TAR/ターのMotelCaliforniaのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.4
身構えていた。「難解な映画」という顔つきをしていたので。
並いる映画評論家たちが絶賛しているが、シネフィルとは到底言えない自分が理解できなかったらどうしようかと…。
2時間半後、杞憂だったことがわかり、良かった〜という気持ちと、おっもしれえ〜!という気持ちで劇場を出た。
観ながら思ってたのは「意地悪な映画だな〜」ということだが、帰り道、いろいろ頭を巡らしていると、先日見た「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3」と同じメッセージなんだ、と気づき、感想が反転した。
どういうことかというと、史上15人目のEGOT(エミーグラミーオスカートニーの各賞)を得たカリスマであり、天才が故に人格的には問題のあるベルリンフィルの選任指揮者・主人公ターが、とあることで告発され(それ以前から強迫観念に囚われて精神に変調が見られていたことが相俟って)業界を追放されるまでの話なのだが、その行き着く先というのが「え!」という地点になっており、ハイカルチャーからカウンターカルチャーの極北のような場所に立つというもので、鑑賞中は落ちるところまで落ちた…という描写だと思わされたからだ。映画の前半と後半でターが演奏者に向かって言う「作曲者の意図を汲み取って欲しい」という台詞が後半では完全に皮肉として響いており、ひどい!と、苦笑した。

…のだが、よくよく考えると、鼻持ちならなかった彼女は、色々と吹っ切れたこれから先は、きっと強かに生きていくんだろうし、ここから這い上がっていくんじゃなかろうか、そもそも民族音楽研究からキャリアをスタートしたという設定からも、音楽界の非常に幅広いエリアを転々と渡り歩いているだけなのでは…と、気づいた瞬間、これはハイカルチャーに対して劣った位置にあるポップカルチャーという話じゃなく、GotG3終盤のドラックスの台詞(正確にはグルートが言ったことを、ある人に通訳した言葉なのだが)「間違ったら、やり直せばいい」というメッセージだと気づいて、わー、これは救済の物語なのか!と、時間差で感動に震えた。

自分にとって、なかなか鑑賞後に解釈が転換してあとから感動が押し寄せるという映画体験は少ないので、その意味でもまた感動した。

—と言うことで、いろいろ物語を理解した上で二度目の鑑賞をすると、初回とは全然違った楽しみかたができそうなので、時間をおいてまた観たいと思った。
会話の中だけで登場人物のことが説明されすることが多く、観ている最中は、え?いま誰のこと言ってんだっけ??となることもしばしばだったが、いまなら、誰が何をした、も頭に入っているのでするする鑑賞できそう。
あと、冒頭のタイトルロールで延々と流れる謎の歌がなんなのかも、二度目はよくわかる。

ケイト・ブランシェット、改めて言うまでもなく、やはりすごい。彼女以外、この役は誰が演じられたのか…。ホアキン・フェニックス??笑
劇中、なかなか演奏シーンが出て来ないのだが、初めて指揮をしているシーンに突然切り替わった瞬間は鳥肌が立った。迫力…

Bunkamuraの名が不意に出てきたり、抹茶が気取ったターのやな感じを表す小道具になっていたり、ラストのあのコンサートの作曲者が大阪から来られませんとか、端々に日本が出てくるのも可笑しかった。
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