MotelCalifornia

異人たちのMotelCaliforniaのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.9
山田太一原作のイギリスにおける翻案映画。

12歳のときに事故で亡くした両親に中年になった主人公が会いに行く、という設定はそのままに、自身がゲイである監督によって主人公のセクシャリティが変更されている。
(原作未読、また大林宣彦監督作の邦画も未見)

冒頭からして不思議なトーンで物語は始まる。ロンドンを見渡すようなタワマンに住むのは、主人公アダムと別の階に住むハリーのみ。なぜ…?
脚本家のアダムは、両親を題材に本を書くため、休日になると電車で郊外にある実家へ通っている。そこでは事故当時の姿の両親が暮らしており、親子だが見た目は同年齢くらいの3人が、失われた時間を取り戻すかのように再び交流を深めていく。
80年代、アダムが子どもだった頃はAIDSは同性愛者の間に広がる不治の死の病で、幼い彼が自分のセクシャリティを両親に告げることなどとてもできない社会的抑圧があった。
長年、パートナーを見つけることに臆病だったアダムは、ロンドンの自宅ではハリーという恋人を見つけ心の平穏を得るが、両親の事故当時の辛い思い出や、自分がゲイであることへの理解を得られなかったという後悔の念による悪夢でうなされ始め…という話。

アダムと自分はほぼ同世代で(劇中でかかる音楽は当時の日本でもMTVで流れていた馴染みのある曲ばかりだった)、数年前に母を、今年になって父を亡くしたということもあり、かなり喰らってしまうのではないかと覚悟して臨んだが、どういうわけか、わりと冷静に観ることができた。自分は冷たい人間なのかな?と、たまにゾッとしてしまうときがあるけど、動かなかった心は本当の反応なんだから、仕方ない…。

とはいえ、僕も鬼ではない(笑)。モールのアメリカンダイナーで両親と最後の食事を摂るシーンにはうるっとさせられたし「まだ話し足りない」というアダムに母が「いくら話しても足りることなんてことはない」と返す言葉にはグッと来た。自分の母は突然ポンと亡くなってしまったので、時間が経つほど寂しさに気づくというか、もっと話したかったなあと悔やむ気持ち、会いたくなる気持ちが募ったりもするのだけど、アダムの母の言葉を聞いて、死期をわかっていたとしても、きっと話しても話しても話し足りなかったんだろうと、納得をした。別に心の中で対話すればいいわけだし。
再びあの世に戻りもう会えなくなるという瞬間、両親の目から光が消えた演出は、すごいと思った。

誰もが自分に引き寄せて、誰かに思いを馳せるきっかけになるいい映画だと思った。

ラストについてはいろんな解釈があると思うけど、僕の解釈の通りだとアダムがあまりに悲しいから、違うパターンであって欲しいと願いたい。
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