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TAR/ターの2035のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
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この映画のポイントは 彼女の地位だと思う。
著名となり、権力を持った人間だからこそ、振る舞いや思想は周りに大きく影響し、勝手に切り取られ、ジャッジされる。
鑑賞者の多くは彼女と同じ側にはいられない。周辺から覗き見て、行動の正誤や心根の善し悪しを評定することになる。

芸術に携わるものが、それを至上のものとして扱うということはよくある話で、当の主人公の振る舞いの軸にも、そのような信条を感じる。
周囲の、特に身近な人間たちに対しては、見方をどう変えても不誠実だが、本人としては優先順位通りに関わっているだけなのかもしれない。

そもそも大事に思うものの前では 妥協をすることができないようでもあり、それは教鞭を取るシーンや、子の学校へ訪問したシーンからも読み取れる。肩の力を抜けない様子と彼女の地位とは無関係ではないはずで、それは全く喜ばしいことではない。
そして、そもそもこの人物が架空の存在であることが、現実に立ち返ったときに いちばん重たくのしかかってくることでもある。


→ 鑑賞2度目
主人公がその立場までのぼりつめるまでの過程について、1度目では考えが及ばなかった。

主人公はいわゆるガラスの天井を破り、その上に立っている。そしてその構造の一部として機能することで業界に居続けることを認められている。
名誉男性に限らず ある条件と引換に立場をたもつ者たちは、自覚的かはさておき、こうした愚かな再生産を続けざるを得ないということが往々にしてあるのかもしれない。
それ自体は決して肯定できるものではないが、少なくともキャンセルカルチャーでは解決されない。その先を考える必要がある。

…それらを踏まえたうえで、指揮台に立つ彼女を見なければならない気がした。
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