さいらー

TAR/ターのさいらーのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

公式サイトに興味深いページがある。「この映画のラスト、どう見た?ハッピーエンド?バッドエンド?」という煽り文句。
自分はこれに当て嵌めるならハッピーエンドだと解釈する。

わかる人にだけわかりやすく言うと、本作は
「ドクターストレンジの冒頭、カーマタージに行き着くまで」
「BUMPのベストピクチャー」
だろう。

昨今盛んなキャンセルカルチャーを扱う本作。
身から出た錆でキャンセルされ、地位と名誉と満足感を失っていき転落する話だと受け取るか、
分不相応な立場から脱し心に音楽を取り戻して再スタートを切る話だと取るか。
そこが解釈の分かれ目だろう。

ただ終盤とあるビデオを見るリディアの表情や最後のシーンで指揮を振る表情を、それまでのリディアの表情と比べて見れば、これは言うまでもなくハッピーエンドでしょうという気はするけども…笑

あと冒頭のめちゃ長クレジットで「モンスターハンターワールド」という文字列を目にした時は「え?どゆこと?なんでこの映画でモンスターハンターが??」となって気を取られたが、とっくに忘れてた最後の最後で「そゆこと…笑」となる。
つまりターの行き着いた先がモンスターハンターだったわけだが、あのシーンは解釈の余地はあれど決して底辺として描かれてはいないという事。
よって監督の意向としてはハッピーエンドなのではないでしょうか。



さて、そんな大筋の話とは別に語りたい事がいくつもある本作。

・時々差し込まれる赤髪の女性の後ろ姿の正体
・幻聴なのか?幻覚なのか?ターの遭遇する不思議体験の真実
・ネット動画等、ターを告発する告発者の正体
・マッサージ店として案内された風俗への反応の理由

語り出すとキリが無さそうな作品なので、一先ず解釈の分かれそうなこの四つに絞って語ってみたい。

まず一つ目
『時々差し込まれる赤髪の女性の後ろ姿の正体』
これは自殺したクリスタという女性で間違いないだろう。途中から登場するオルガというロシア人のチェロ奏者も赤髪だが、こちらはミスリードで、クリスタの自殺記事にクリスタ本人の写真があり、顔は映らないが綺麗な赤髪の女性である事がわかる。
冒頭の段階ではクリスタはまだ自殺しておらず、辻褄も合う。
ただし自殺後にも赤髪の女性が映っており…これが二つ目の議論点に繋がる。

二つ目
『幻聴なのか?幻覚なのか?ターの遭遇する不思議体験の真実』
中盤から、ストレスによりターに異変が生じる。出どころがわからない幻聴に悩まされたり、謎のマークや不可解な幻覚を見始める。
そしてその中にはもはやホラーシーンと化した深夜の寝起きドッキリシーンで赤髪の女性がまるで幽霊の如く映るショットすらある。
これは完全にクリスタの死後であり、娘のペトラもそれを認識しているような素振りを見せる。
つまり、あれはストレスからくる幻覚や幻聴でもあるが、同時に霊的な現象でもあるという事だろう。
詳細は忘れたが冒頭にターの経歴として5年間シャーマン的な謎部族と暮らしていたという設定があった。意味のわからない経歴だったが、なるほどこの伏線だったのかと思えば納得がいく。

三つ目
『ネット動画等、ターを告発する告発者の正体』
これも出版イベントでの挙動からしてオルガなのか?と思いきや、それはミスリードで、辞めた助手のフランチェスカ説が濃厚。
クリスタと仲が良かった事、そのクリスタに対するターの態度や、自身への扱いに対して不満を抱き、いつでもターを落とせる準備をしていたのだろう。
クリスタとのメールも、ターからの指示に反して削除せず残していた。

四つ目
『マッサージ店として案内された風俗への反応の理由』
これはまず第一に、自身がレズビアンであるという事が遠い異国の地にも認知されている事への恐怖。
第二に、今まで大勢の中から簡単に人々を取捨選択し選別してきた自分の行いと、風俗で見本のように水槽に入れられた女性たちから一人を番号で選ぶような行いへの醜さをリンクさせてしまった事による嫌悪感。(5番という数字がまたリンクを強める)
これらから起因した嘔吐だったのだろう。



などなど、語りたいことは本当に山ほどある。
構造上、あらゆる伏線が第一幕で張られていて、それらの仕掛けが明示されていくのが第二幕以降になるため、一度見ただけでは、遡って考察するくらいしか出来ず、もう一度見て確かめたい気持ちと二度見るのはしんどい気持ちとがせめぎ合う…笑
よって、見た人とあーでもないこーでもないと語り合いたい作品だ。
きっと、まだまだ自分が気付いていない描写の数々が隠れているのだろう。

総評としては、語り甲斐のある良い映画だったのは、まず間違いない。