しだたくみ

TAR/ターのしだたくみのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

痺れるほどよかった!!
楽団というテイを取ってるけど、会社や社会の中で偏在している「行き違い」の問題の話として秀逸な作品。それはジェンダー間、上司部下間でも当てはまる。

・ターは助手に最大限配慮してたはずなのに、助手はターの元を去ってしまう。
・反差別主義な思考を持つ学生の意見を全く受け入れず、ターは自分のある種権威主義的な意見を押し付けてしまう。
・奥さんのことを気遣って告発されたことを隠してたはずなのに、それが仇となって家族崩壊を招いてしまう。
・実力評価が前提とはいえ、自分の心の穴を埋めてくれる若い女の子に、ターは大事なソロパートを任せてしまう。

上述した全てにおいて、我々はターを責められない。なぜならターは破格の功績を収め、一見すると人望ある素晴らしいリーダーだから。だけど、そうしたターと周囲の人とのちょっとした価値観のズレが大きな問題に発展してしまい、相手の人生や生死まで左右してしまう。これは現代の「働きづらさ」に通ずる切実な問題だと思うし、それをノンフィクションレベルに微細に描いてみせた凄い映画だと思う。

ケイトブランシェットは、気丈に振る舞いながらも内面的には脆さを抱えた人間像を表現できる、トップクラスの俳優。キャロルを彷彿とさせつつ超えてくるような凄まじい演技だった。

加えて、ターのあらゆる行動が旧来の男性的であることもポイント。だけど社会的な立場はやはり「旧来の女性的」であり、常に自分が襲われるかもしれないという恐怖に駆られながら生きている。

どうかこの作品が小難しいアートムービーに収まることなく、現代の普遍的な「働く問題」を捉えた作品として、広く伝わることを願う。
しだたくみ

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