にょいりん

TAR/ターのにょいりんのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
5.0
冒頭からリディア・ターの異色かつ輝かしい経歴紹介とインタビューシーンが続き、その語る内容と語り口によって、リディア・ターのリアルな存在感と複雑な魅力が観客にインストールされる。
映画が進むにつれ、リディアの様々な側面が見えてくると、その存在はより複雑に感じられる。
女性、マエストロ、レズビアン、反権威主義、権力行使、過大な自意識、音楽への奉仕、愛欲ーー、多面的であるのに、そこかしこで貼られたレッテルによって、リディアが束縛され駆動する姿を見ていると息苦しくなってくる。
そんな中で楽団の新人採用面談で出会ったチェロ奏者のオルガにリディアは心を揺さぶられる。
オルガはYouTubeで観たある演奏会のチェロ奏者の演奏に感化されてチェロを始めたといい、リディアがその時の指揮者は有名な人だといっても興味がなくてその演奏が良かっただけだからと臆せず言う事にリディアはガッカリするが、オルガの演奏を見てその才能にリディアは強く惹かれ、それ以上の感情を抱く。それが発火点となって、あるスキャンダルの疑惑が浮上しリディアにレッテルを貼り、彼女を失墜させていく。

この映画は権力と才能と表現という2023日本の芸能に通じる問題も含みつつ、単純化したレッテルを張り合う社会への疑問符でもあると思う。伏線を回収するのも楽しいけど、その網に掛からなかったフワフワしたものを捕まえるのが大事な気がする。

監督が当て書きしたというケイト・ブランシェットとリディアの同期は圧倒的で、音楽も素晴らしいし、サイコサスペンス要素もありで贅沢な158分だった。