このレビューはネタバレを含みます
もう最高。ケイトブランシェットの演技大好き。
高圧的で古典的な音楽社会でキャリアと欲を意のままに掴むために、女性でありながらも男性的態度で一種のマスキュリンな貪欲さや横暴さを、あくまで理性的に見せながら方々に振りかざす姿勢が目に余る。
そうしなければ高い指揮台に登壇できなかったかもしれない。そうやって築かれた貴族主義的、封建的な体制が崩れ去ったとき、古典音楽が瓦解し皮肉にも現代音楽へと左遷させられる。
輝かしい栄光のメダルのメッキが剥がれ落ちていくように、告発によりグロテスクな面が露呈し、溌剌として美しいリディアが高尚から低俗へと意図的に老けていく様は痛々しい。
ヨーロッパのオーケストラから降りた指揮者がアジアに向かうのは現実でもあるらしく、様々な差別や蔑視の面も思い浮かんでしまうが、ターはそこでも全身全霊でその音楽に身を投じ、心血を注いでいた。馴染みのない孤独な異国で始原に回帰する様。
マーラー同様、神経が触れるほどの強迫症状や、些細なノイズをも自身の理想の世界から退ける繊細さにより完璧な音楽を目指す様子は、芸術世界においてはままあることだと思う。
そこで他者や外界を重んじることなく、自身の内の観念や偏見を信じて理想を追い欲求を振りかざすのは排斥的・暴力的すぎる。
センシティブな感性を持つ神経質さと、大らかな感受性と他を拒まない寛容さとの間、そういった音の緩急による自由な表現によって生まれるものもあるだろう。
倫理的観点を無視するなら、あのまま全部ぶっ壊して演奏続けてたら物語として本当に最高だったしテンションぶち上がったと思う。