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神々の山嶺のsomaddesignのレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
5.0
夢枕獏の原作小説を谷口ジローが漫画化した山岳コミックの傑作を基にフランスでアニメーション映画化。エベレスト初登頂をめぐる未解決の謎に迫るクライマーたちの姿を描き、第47回セザール賞でアニメーション映画賞を受賞するなど高い評価を獲得した。

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原作未読。
事前情報なしで見に行ったので、てっきりフランスアニメ風の日本製のアニメかと思ってた。
なにはともあれ、映画館で見るべき!できるだけ大きなスクリーンで!

そもそもヨーロッパで谷口ジロー作品が愛されてて、特にフランスでは2001年にアングレーム国際漫画祭 全仏キリスト教会コミック審査員会賞『父の暦」を皮切りに、2003年に再びアングレーム国際漫画祭 最優秀脚本賞/優秀書店賞「遥かな町へ」を受賞。2005年に今作で アングレーム国際漫画祭 最優秀美術賞を受賞すると、2011年にはフランス政府より芸術文化勲章シュヴァリエ章を受章している。

制作にあたっては、プロデューサーのジャン=シャルル・オストレロが幼少期から登山が好き。山岳に関する様々な書籍を読み込んでいた中で、原作マンガに惚れ込み、谷口ジローに手紙を書いてオファー。谷口ジロー先生が2度渡仏し制作に参加したが、7年に及ぶ制作期間の最中、完成を見ることなく2017年に逝去。
夢枕獏先生ならずとも「谷口ジローに見せかたかった」とはいやまさに。

ストーリーの面白さはもとより、フランスのバンドデシネに影響を受けたという谷口ジロー先生の綿密な描写と静謐な筆致がフランスアニメと相性バッチシ。セリフより絵と間で心理描写を語る作風はマンガってより芸術作品に近くて、アニメ化に際しては、原作の雰囲気そのままに説明を排してアニメ表現でキャラクターの苦闘を描いてるのが素晴らしい。スクリーンを通して雪山の美しさと残酷さに息を忘れてしまった。
(文太郎のストーリーは予想ついちゃう分、恐ろしさと、他に方法がない絶望が胸を突く)

正直、ミステリー要素がどうでもよくなるくらい、美しく荘厳な山々の描写に圧倒されるし、一転して過酷な環境下での人間の弱さ/強さが胸をつく。
主人公含めて、登場人物が人としてどうかと思う人ばかり。『山屋』ってこんな人ばかりなのかしら?と偏見持ってしまいそうなエゴイストかつクズで感情移入が難しい。が、羽生の足取りを丹念に追ううちに、彼らを駆り立ててるものにうっすら共感できる作り。

今更褒め称えるのもバカらしいレベルで堀内賢雄&大塚明夫の名演さすが。フランスアニメってことを忘れさせるハマりっぷり。男臭さと汗臭さがスクリーンからモワっと漂ってきそうな実在感。

90年代末の東京の描写がリアルで、おぼろげな記憶が輪郭を取り戻す感じ。
街並みや衣装のみならず、日本人の仕事観とか今となってはなんだか懐かしい。
個人的にアップルのノートパソコン「PowerBook」とか趙懐かしい。トラックボールにホコリが溜まるんでよく掃除してたな。


余談)
こだわったという食事シーン。居酒屋でプカプカ煙草を吸えた時代がもう懐かしい。返事の代わりにグラスをぶつけ合う仕草や、何気ない部分の作り込みと原作愛が異常事態。日本描写がすごく細かくよくできてる分、ラーメン屋のノボリの文字がおかしかったり(音引「ー」がヨコのまま)、どんぶりに直接口つけてスープ飲む描写の奇妙さに引っ掛かっちゃった。そばの食べ方とごっちゃになったぽい。


51本目
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