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神々の山嶺のkitoのレビュー・感想・評価

神々の山嶺(2021年製作の映画)
3.8
短時間に無駄なくエッセンスだけを濃縮した素晴らしいアニメーション作品で面白かった。

全国的な荒天で強風が雨戸を揺らす音に刺激されて何となく山岳ものが観たくなり(⁈)クリップしていた本作をチョイス。観終わってからググると「へぇ」の連発だった。原作は夢枕獏の小説で後に谷口ジローが漫画化、大ヒットしたフランスでアニメ化された異色作。

フランス人監督とスタッフ陣の描いた東京の風景、日本人の日常に全く違和感がない事に驚く。知らなければ日本のアニメだと言われても疑わないレベルで、スタッフの優秀さ、原作に対するレスペクトが感じられる。

肝となるエベレストの山並みの描写が実に美しい。手前ははっきり描き、遠景ほど微かにぼかす感じに何とも雰囲気があるーーもちろん、実景は観たことないんだけど。

また、人物を限りなく小さな蟻のように描いているシーンがいくつかあって、山々の雄大さが見事に表現されている。日本人ほどアニミズム(人間、動植物、無生物などすべ てのものに霊魂が認められると仮定された信仰体系の一形態)に馴染みのない外国人でも、やはりエベレストは神々しいと感じるのだろう。

エベレスト登山史上最大の謎とされている実在したジョージ・マロリーの登頂の成否の謎を軸に、日本人登山家とマロリーの謎を追うジャーナリストを通して、なぜ人が山に魅せられるのかを問う、という感じ。

マロリーは「そこにエベレストがあるから(Because it's there.)」と答えたという逸話の人だった。「そこに山があるから」という誤訳が流布されているのを初めて知った。

根っからのインドア派なので登山やキャンプなどのアウトドアにはおおよそ縁がない。それでも山は嫌いではなく、高尾山クラスなら時々ハイキングする。以前、雨の日が多いことで有名な神奈川の大山(おおやま)を訪れた際は、途中で霧が出てきて他のハイキング客もすっかりいなくなり、標高1,252mのかなり近くまで登ったのだけど後ろ髪を引かれながら下山したことがある。ググるとハイキング感覚で登るのは大間違いとあってヤバかった。でも、登り切りたくなる気持ちが少し分かった気がした。

2016年に「エヴェレスト 神々の山嶺」として日本でも実写映画化されている。それも観てみようと思ったのだけど予告編を観ただけでダメそうな感じがして萎えたので、「エヴェレスト3D」(2015年)を観ようと思う。
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