滝井椎野

ケイコ 目を澄ませての滝井椎野のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
16ミリフィルムのザラつきと、そこに響くパンチミットの音が実に心地よい。

耳の聞こえないハンデを抱えながら日常を送るケイコの生きづらさや、心の機微を見事に描いており、その場面場面の描き方や演技には脱帽であった。

決して劇的な出来事等は起こらない、本当に日常のある場面を切り取ったかのようなストーリーは、それ故にケイコの内面を深く知ることができる。タイトルにもあるように、その目を澄ませる描写にすべてが詰まっており、苛立ちや悲しみ、ちょっとした喜びを噛み締めながら前に進んでいくケイコの姿は時に痛々しく、時に熱く観ているこちらの目に映る。

作中はとにかく静かな時間が続き、生活音がリズミカルに響く。特にボクシングのスパーリングや試合、縄跳びの音はまるで音楽のよう。
とても心地の良い作品だった。
滝井椎野

滝井椎野