滝井椎野

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたいの滝井椎野のレビュー・感想・評価

4.1
あらゆるケアを必要とする人は老若男女関わらずいるが、手助けをしてあげたい等と言うのがいかに覚悟を伴うことなのかを強烈に叩きつけられる作品。

抱える爆弾(癇癪や執着心、トラウマ……)を持て余し、それが爆発する度に周囲を傷つけ自身も傷つくベニーの痛ましさが心に刺さる。
あくまで本作はフィクションであるが、そのリアリティに鑑賞後はなかなか落ち込み、どうしてやれば良かったのだろう……と考えさせられた。
それもひとえにベニーを演じるヘレナ•ツェンゲルの演技力ゆえ。可愛らしくもあり恐ろしくもある、その演技には圧倒された。

ベニーを取り巻く大人たちや、施設の子どもたち、母親でさえ本気でベニーのことを考え、受け入れ、何とか力になれたら……と考えているのが分かるだけに、それでもどうにもならない現実に登場人物同様スクリーン越しに観ている私自身も無力さを感じさせられる。

ミヒャもやり方は間違っていなかったのではないだろうか。ただ、それ以上にベニーの抱えるものが大きく、彼には守らなければならないものがあった。
二人の交流には心温まり、ベニーがミヒャに懐いていく様子は実に微笑ましかった。だがそれ故に物語の終盤は心が締め付けられ、あまりのやるせなさに何も言えなくなってしまった。
滝井椎野

滝井椎野