生まれつき耳が聞こえないケイコは、
ホテルの清掃の仕事をしながら、
ボクシングジムに通っていた。
プロテストにも合格し、試合でも勝ち星を
あげており、ジムのトレーナー達も
ケイコの実力を認めていた。
過酷なトレーニングの毎日で、
ケイコはボクシングを少し休もうと
葛藤していたが、
そんな中ジムが閉鎖されることになる。
主演はこの作品で数々の映画賞を受賞した
岸井ゆきの。
ボクシングを題材にした映画は色々あるけど、
ボクサーのストイックな姿に
心を動かされるから、面白いのかなと思う。
これはケイコがボクシングに向き合う日常を
淡々と描いた作品。BGMもなく、
セリフもない中で、様々な表情でケイコの気持ちの揺らぎを演じた岸井ゆきのがとにかく素晴らしかった。どこか不機嫌そうな表情だったり、心を許せる相手に見せる笑顔だったり、その佇まい全てが岸井ゆきのではなくケイコそのものといった感じで、血が通ったキャラクターになっていたと思う。彼女の作品は「愛がなんだ」くらいしか見ていなかったけど、全くの別人だったし、まさに体当たりの演技で、絶賛されるのも納得。
しんどいけど、休むのは怖い。
怖いけど負けたくない。
複雑な心の内を、セリフなしで見事に演じきっていた。
ケイコの迷いが、結果どのような方向に進んでいったのか、詳しくは語られないけど、
ロードワークをするケイコの姿と、トレーニングの音で聞かせるラストシーン。静かな余韻が良かった。
ジムのトレーナーの松本役で、ボクシング経験者で多くの作品でボクシング指導もしている松浦慎一郎さんが出ていたけど、「百円の恋」の時から注目していた。経歴を調べたら、たくさんの作品に俳優として出演経験あり。今年の日本アカデミー賞では、岸井ゆきの、安藤サクラ、窪田正孝と、ボクシング指導した教え子達が集まっていて、しかも賞を受賞していたので、Twitterで驚きの声をつぶやいていた。声がいいなという印象。地味かもしれないけど、表に裏に活躍する俳優さん、これからも注目していきたい。
ジムの会長の妻役で仙道敦子が出ていたのにはちょっとびっくり。トレンディドラマ全盛期にTVで大活躍していて、結婚してから表舞台から遠ざかっていたから、まさかこんなところにと思ってしまった。セリフ回しが昔と変わっていなくて、なんか懐かしかった。
あと、浅野忠信とCHARAの息子の佐藤緋美がケイコの弟役で出ていたけど、「ムーンライト・シャドウ」の時と同様に、ゆるい空気感を醸し出す、肩の力の抜けた演技が良かった。
派手ではなくて、シンプルな作品だけど、
心を揺り動かす熱量を持った作品。
とにかく岸井ゆきのが良かったです。