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ケイコ 目を澄ませてのオロゴンのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.4
三浦友和の健康診断の場面、聴力検査と視力検査によってこの映画の音と光に対する思考が端的かつユーモラスに表現されます。

三浦友和はヘッドフォンをし、「音が聞こえたらボタンを押してください」と検査を受けますが、観客に聞こえるのはスイッチの音であり、三浦友和が聴いているであろう音は聞こえません。
一方で視力検査で三浦友和が「右」と言うその印が上であることは観客にはっきりと見えます。

電車の音、川の音、ミット打ちの音、縄跳びの音、シャドーボクシングで足をする音、様々な音が豊かに流れていきますが、岸井ゆきの演じるケイコには音が聞こえないということを観客は想像し、電車の光、川の流れ、ミットの動き、縄跳び、シャドーボクシングは観客も見ます。

サイレント映画のように言葉は文字として立ち現れ、豊かな動きを見るためにカメラはほとんど動きません。

ところで、ケイコは荒川でトレーニングし、隅田川の下流の街浅草で友達と遊んでいます。川の近くは電車や車や人が行き交い、都市の片隅に潰れかけのジムがあり、そこで一生懸命に過ごしている人がいるという映画であり、世界を構築することが映画なのだと思わされます。

ケイコはホテルで働きながらプロボクシングをやっていますが、ケイコが負けた相手もまた作業服で働いているのだと映画の最後で分かります。それを見たケイコは土手に上がり走り出しますが、そこにはやはり人が行き交います。

三宅唱は賢く優しい人なのだと思いますが、その人間観や世界観(社会観)は極めて現実的で、そこにはある種の厳しさストイックさが流れているように感じます。
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