オロゴン

冬冬の夏休みのオロゴンのレビュー・感想・評価

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)
4.0
のんびりした田舎の夏を素早く通過する横の動きに驚かされます。

冬冬と妹が二階の廊下を何度も何度も往復しますが、その足音を聞きつけた医者のおじいちゃんが奥行きからやってきます。
それは楽しげな運動ですが、奥を走る車やバイクの速さに不安があり、実際妹は奥にいる兄達を追いかけようと線路を転びます。不安になって兄は奥から手前を見つめ、線路を転ぶ妹を寒子が救い、恐るべき速さで列車が横の動きで通過します。

この横切る列車の近さ=速さは、寒子が木から落ちた直後に挿入される駅のような門のような場所の手前をものすごい勢いで通過する列車という形で反復されます。

それは物語としては、自分の命を救った寒子に婷婷が、救命を望んで鳥の死骸を渡すことがきっかけで起こる事件です。婷婷にとって寒子は救命の力を持つ存在でしたが、結果として寒子は流産し、医者は寒子を診るために様態が悪化した婷婷と冬冬の母の元へ行けなくなります。
思えば、雀が網の罠に絡まって死ぬ描写がありますが、寒子を孕ませたのが雀取りの男であったように、鳥の死も反復されながら人間の生死が物語としても構築されることになります。

横の動きの速さが死を連想されるように奥行きは安定した時間の長さを感じさせ、奥に一人歩いていく寒子や兄妹を乗せて帰っていく車の去り方もそうですが、阿正國ら子どもたちが横向きに飛び込むのをどっしりと受け入れる川の流れは、緩やかにどこまでも続いていくかのようです。

蛇足ですが、寒子が鳥の死骸を持って泣く顔に一瞬入る太陽の光、いなくなった阿正國が橋の上でただ寝ているだけで見つかったとするあっけなさ、そういうことも印象に残ります。
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