netfilms

X エックスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

X エックス(2022年製作の映画)
3.8
 1979年テキサス。女優のマキシーン(ミア・ゴス)と自主映画出身で新進気鋭の学生監督のRJ(オーウェン・キャンベル)は、山師的なマネージャーのウェイン(マーティン・ヘンダーソン)に唆され、夏のある日、ポルノ映画撮影のために避暑地へとやって来る。ブロンド女優のボビー・リン(ブリタニー・スノウ)とベトナム帰還兵で俳優のジャクソン(スコット・メスカディ)、RJの彼女で録音担当の学生ロレイン(ジェナ・オルテガ)も一緒だ。 3組のカップルは、ポルノ映画撮影のために人里離れた農場へ向かっていた。夏休み、バン、若いカップルと言えば真っ先にトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』を連想する人は非常に勘が良い。今作は『悪魔のいけにえ』とポール・トーマス・アンダーソンの『ブギー・ナイツ』を足して2で割ったような映画だ。途中ガソリンスタンドのコンビニに立ち寄り、食材を買い集めた若者たちは1本の映画に今後の生活を賭けている。JLGに憧れるRJは当初からカメラを廻していれば『ウィークエンド』のような物凄い映像が撮れたはずだ。臓物を引き裂かれた牛の死骸はその後に起こる残酷な運命の予兆に他ならない。この土地貸しますと言っていたはずの老人ハワード(ステファン・ウレ)はどういうわけかよそ者に冷たい。 妻と2人暮らしだという二階建ての家は一見して普通の家だが、2階の窓際から明らかにこちらを見つめる不気味な「目」に気付くのだ。

 スコット・デリクソンの『ブラック・フォン』同様に、今作も幾つものホラー映画の名作から選りすぐった場面だけで構成された「枠」の映画だ。何かが起きる気配をマキシーンたちの周囲に張り巡らせ、いつ暴発してもおかしくない恐怖をゆっくりと醸造する。霰も無い姿の上にオーバーオール羽織ったマキシーンが沼地で泳ぐ場面なんてその顕著な例で、彼女のゆっくりとした泳ぎのペースに合わせたかのようにワニもゆっくりと泳ぐから、済んでのところで難を免れる。そして一行は集団が1人1人に分断されたところで悲劇に巻き込まれる。ポルノ映画で一攫千金を夢見る若者たちの焦燥は『ブギー・ナイツ』以上に女性に主導権があり、犯される側がやがて製作側を主導する立場に躍り出る辺りが面白い。絶対的な権力者であったはずの監督はロレインの心変わりに怖気付き、そこから禍々しき事件の幕が上がる。別の男に抱かれた彼女の下着には「SUNDAY」の文字が踊る。『ドント・ブリーズ』の老人のように、高齢化社会の時代に突入した近年のホラーは老人がひたすら元気だ。『悪魔のいけにえ』の頃はあくまでレザーフェイスの生みの親としての立場に留まった老人がここではモラルの乱れた若者の性に感化され、隠していた性を露わにする。戦争と因習が抑圧した性はマキシーンと老婆パールを合わせ鏡の関係に結ぶ。老いに抗えぬボケ老人の姿を妙に茶化したような演出にはやや疑問も残るものの、分断の仕方と殺し方にはやはり年の功が見える。とはいえ心臓に悪い残酷描写をまるで老人のような冗長なリズムで処理するタイ・ウェストの演出はある意味、悪趣味極まりない。
netfilms

netfilms