木蘭

ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュの木蘭のレビュー・感想・評価

4.5
 グアンタナモに連れ去られた息子を取り戻そうと奮闘するトルコ系ドイツ人のおっかさんを描いた実録コメディ。

 冒頭からトンデモ無く深刻な状況に巻き込まれているのに、あり得ないほど軽妙な展開で悲壮感が皆無なシーンの連続にビックリ!こういうトルコ系(に限らないけど)のお袋さんっているよなぁ・・・とクスクス笑ってしまうコメディが展開する。
 それがやがて深刻ながらもエモい話へと変化し、最後は爽快感すら憶えて劇場を後にした。

 それは主人公のクルナス夫人と、彼女を助けるドッケ弁護士という、この2人の強烈な、そして驚く事に実在する人物のキャラクターによるのだろう。

 見た目からして対照的な2人だが・・・
クルナス夫人はトルコ移民のドイツ人の主婦で、皆に食事をドンドン食べさせてしまう様なお節介で図々しくもマイペースで周りの目なんか気にもしない騒々しいオバさんなのに対して、
ドッケ弁護士は欧州系ドイツ人の左派人権弁護士で、理知的で社会的常識人にして、環境や健康にも気をつけているし、恐らく仕事とプライベートのメリハリもキッチリ付ける人。
 クルナス夫人が、法律や手順なんかよりも行動力とコネで突破しようとするのに対して、ドッケ弁護士は法治国家の使徒として折り目正しく振る舞う。

 そんな真逆な2人だけど・・・クルナス夫人は素朴な信仰と伝統的な家族愛の先に・・・ドッケ弁護士は法律と憲法との先に・・・共に同じ善意と正義の存在を観ている点。
 だから違いを乗り越えると言うよりも、全く違う存在なのに互いを尊敬し支え合える関係が、こんな悲惨な話なのに清々しさすら感じさせてしまう。しかもコメディに出来るんだよなぁ。
 勿論、劇映画なので脚色しているのだろうけども、とても上手い作劇になっている。

 兎に角、ドッケ弁護士役のアレクサンダー・シェアーが上手い。
 今作の監督と脚本家とで組んで製作した伝記映画『グンダーマン』で、伝説的東ドイツの歌手である主人公を演じた時も似ていたが、今回も本人にそっくり!
 押さえた演技ながら、法治国家の理想を信じる情熱や、さりげないヒロインに対する気遣いだとかを、サラッと表現するんだよなぁ。

 軽妙なコメディだけど、ドイツ政府への痛烈な批判だとか、クルナス家の夫婦の微妙な関係だとか、ビターな要素も加えているのも味わい深い。

 しかし昨今の欧州の左派政権って、どうして左派の期待を裏切る様な政策をするんだろうなぁ・・・と観ながらしみじみと感じ入った。余談です。
木蘭

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