みんと

苦い涙のみんとのレビュー・感想・評価

苦い涙(2022年製作の映画)
3.7
直感を信じるなら、スルーしてた作品。
けど、オゾン監督だし、どんな風にリメイクされてるんだろう…
観てみた。

コレは『ピーター・フォン・カントの苦い涙』
主人公ペトラをピーターに替えて、オリジナルにほぼ忠実な内容だった。ただ、人物の感情に焦点を当て、ユーモアを加えた分、人間味とリアリティを感じるとても寄り添い易い作品でもあった。

そして、これでもかの鏡の演出、奥行きを意識した構図やアートまみれの部屋、そして色彩…
映像の拘りの意味でもしっかり引き継がれてた。(オゾン監督流に)

オリジナルではファスビンダー自身の実際の恋物語を、主人公を女性に置き換え、職業も服飾デザイナーとして描かれる。
今作でオゾン監督は主人公を男性に、しかもファスビンダーを想起させる外見を持つドゥニ・メノーシュを据え、職業を映画監督にして、より自伝的に描いている。
とりわけブルーに染まる部屋で髭にサングラスのルックスはまるでファスビンダー!ゾクッとした。

ドイツ人監督とフランス人監督の違い、悲劇と悲喜劇の違い、自身を描くか客観的に描くかによる作品との距離感の視点で観ても面白い。両監督の作家性の違いがとても興味深い。そして漂う雰囲気に至っては全くと言って良いほど別物。

注目してたイザベル・アジャーニは持ってたイメージとはすっかり変わってたけど美しさの保存状態は流石だった。
そして母親役ハンナ・シグラ登場には妙に込み上げるものが。起用の時点でファスビンダーへのリスペクトぶりが窺えるし、そもそも、オープニングとラストに並々ならぬ敬愛の念が込められていた。

何れにしても、とても親しみやすく観やすい作品。そして人間が如何に愛に支配された生き物なのかを突きつけられる。
個人的には、淡白で冷ややかなラストと言い、知的でいて切れ味鋭い美しい作風と言い、断然オリジナルが好みだけど。


ファスビンダー監督が生き急いだ理由のひとつが少なからず垣間見られたような、しかもオゾン監督によってより鮮明に浮かび上がらせたようなそんな印象さえ受けるリメイクだった。

実際、ファスビンダーの早世については、たくさんの重要な映画を撮りすぎたせいと言われる中で、ハンナ・シグラは、愛というものを信じられず愛の苦悩によって早く亡くなったと語っている。
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