理解を差し引いても十分伝わってくる、アカデミー賞7冠に納得!圧倒的な映像と没入感だった。
“原爆の父”オッペンハイマーのドキュメンタリー、そしてノーラン監督のインタビューを頭に入れて、珍しく予習に力を入れて臨んだ。
…ものの、最初から最後までセリフ量の多さ、登場人物の多さ、激しい時系列の入れ替わり、そのうえ急かされるようなノーラン・サウンド…と、体力を消耗する作品だった。脳ミソ使い過ぎて酸欠になりそうだった。
何れにしてもキリアン・マーフィが圧倒的!オッペンハイマーの心の揺れ、内面が抱えているジレンマや葛藤を見事に表現していた。だからこそラストのクローズアップは頭に焼き付いて離れない。
そして、とことんイヤ~なロバート・ダウニー・Jrが素晴らしい!これまた納得の助演男優賞の演技だった。
更には、脇を固める俳優陣までもが豪華過ぎて、それだけでも大作ぶりが窺える。
もし、オッペンハイマー(アメリカ)以外が先に成功していたらどうなっていたんだろう…
一度使ったら、二度と使わなかった以前には戻れない。
全てに共通する、新たな開発競争の裏に潜む危険性を痛烈に感じた。
ある程度覚悟はしていたはずの爆発シーンは、それでも覚悟が足りなかった。
体の隅々の細胞に至るまで異常なくらい敏感にその威力を体感した時、言葉にならない複雑な想いが湧き上がった。
考えるのではなく、強烈に感じた。
きっと、監督が今作で最も拘ったのは観る側のこの感覚なんだろうなぁ…
ノーラン監督の映画は観終わった瞬間から始まる。その後の世界がある。頭に忍び込み居座る…
まさに、エンドクレジットをぼんやり眺めながら、頭の中を駆け巡る様々な想いや考え。日本人として観た時、一科学者の視点で観た時、ウクライナの今に照らし合わせて観た時…
いつも本編終了直後、またはエンドロール最中に席を立つ人の多さに驚くし、個人的には有り得ないとさえ思っていた。
それが、今作では席を立つ人はほとんど見られなかった事からも、ノーラン監督の手中に落ちた人は多かった気がする。
そもそも一度観だけで理解しようなんて、はなから思ってなかったし、むしろIMAXで感じたかった!そう言う意味では大満足だった。
理解は2度目3度目に期待したいと思う。観る毎に確実にスコアが上がるだろうと確信もするし作品としては間違いなく傑作だと思う。
オッペンハイマーの心象風景の中に現れた爛れた顔の女性はノーラン監督の娘とのことからも、しっかり監督自身の中に落とし込んで製作され、それが熱量として観る側に伝わってくる。
余韻を引きずり劇場を出る際、前を行く大学生くらいの女子三人組が「凄かったね~ちゃんと勉強してまた観たいね」と言っていた。この反応こそが監督が今作に込めた願いであり、実際、若者にも響いていた気がする。確実に今作の意義を感じられたエピソードでもある。
核兵器は侵略の兵器、奇襲と恐怖の兵器に他ならない。
大義があったと信じ、科学者としての探究心を突き動かしたその先にあるもの。
決して科学に罪はない、それをどう使いどう活かすか、人間が試されてるのだと思う。
当初、被爆国日本での公開予定は無かった。その後、様々な議論と検討の末、配給会社は公開に踏み切った。
勿論、様々な想いはあれど、歴史を変える事が不可能ならば、知る事、そして未来を変えることはきっと出来るはず!
「答えの見つからない“問い”が私を作品へと導く」とインタビューに答えていたノーラン監督。
次作の“問い”も楽しみでしかない。