CHEBUNBUN

午前4時にパリの夜は明けるのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

4.0
【80年代パリ、悲哀と感傷を包む深夜ラジオのように】
現代は常に結婚、出産、仕事のキャリアプランに縛られているかのようだ。不安定な時代だからこそ、数年単位のキャリアを組み立てながら、敷かれたレールに沿って生かされているような気がする。

そんな現代に対する処方箋としてミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』は輝く作品となるだろう。

離婚し、2人の子どもを育てるエリザベートは悲しみを抱えた状態でラジオ局へと迷い込む。深夜ラジオ、そこには誰かに話したくても話せない想いがリスナーの声として届く。それを繋ぐのが彼女の役割である。彼女には息子/娘がいるが、迷える子羊のよう。特に、息子は授業中に詩を書き上の空。プールでバイトをしたりして明確に将来のヴィジョンが見えていない。そんな中、ラジオ局にリスナーとしてやってきた家出少女タルラを拾う。

彼女は現れては消えを繰り返す。エリザベート一家の鏡像のようにフワフワとした存在として映る。そんな彼女の空虚に惹かれながら人生を一歩一歩進めていく。

徒然なるままに語られる家族の肖像、それは平凡に見えるのだが何故か尊く、煌びやかなものとして私の心に飛び込み木霊する。恐らく、ラジオブースト人生との対比がバッチリと決まったからであろう。ラジオブース特有の、全ての音がクッキリと耳に入ってくる静けさ。そして本音が吐露される空間としてのラジオ。何よりも深夜ならではの感傷的な空間。

思わず感想も詩的になってしまうほど素敵な作品であった。

P.S.ヤバいリスナーと繋いでしまった時の緊迫感はスペースやYouTube配信やっている身として刺さりに刺さりました。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUN