コマミー

コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのコマミーのレビュー・感想・評価

3.7
【多くの女性の命を救う為に】



※fans voice様の試写会にて鑑賞




これまで私は様々な"人工妊娠中絶"を描いた映画を見てきた。
一つは、エリザ・ヒットマン監督の「17歳の瞳に映る世界」。未成年の中絶が両親の了承を得ないとできないペンシルベニア。そこに住む17歳のオータムが、両親の了承がいらないニューヨークに向かう為、親友のスカイラーと共になんとかする物語である。
二つは、オードレイ・ディバン監督がノーベル賞文学賞作家のアニー・エルノーの自伝作品を映像化した「あのこと」。中絶が違法だった60年代のフランスにて、大学生のアンヌが中絶をする為にいろいろ奮闘する物語である。
主に二つを挙げたが、オリヴィエ・ダアン監督がフランス初の女性議員シモーヌ・ヴェイユを描いた「シモーヌ フランスで最も愛された政治家」も中絶の事について描かれていた。更に辿れば、ジェイソン・ライトマンの「ジュノ」もそうである。

日本には残念ながら中絶を描いた作品は無いに等しいのだが、海外では本当に沢山の作品でこの「人工妊娠中絶」の事が描かれている。それくらい、"女性の選択の権利"について真剣に議論を今日まで続けてきた結果なのだろう。日本にも確かに母体保護法という形で、条件を満たせば中絶ができる体制はあるのだが、残念ながら「中絶」に対する考え方が全ての人において前向きとは言えず、最近も新生児の遺棄が跡を絶えない。アメリカでも、州によって中絶を違法か合法か決めていいという、本作で少しだけ描かれている"「ロー対ウェイド」"の判決を否定するような判決を下し、再び混乱を極めている。

さて、長々と書いてしまったが、本作は「ロー対ウェイド」より少し前の物語で、"実在した女性団体「ジェーン」"の取り組みと、それに救われ、実際にその後団体に加入し、施術も行ったという主人公"ジョイ"を描いた作品でたる。

まず思ったのは、"とても分かりやすく"、当時のアメリカの出来事が分かる作品だなと感じた。当事者からしたらもっといろいろ描いてほしいと感じてしまう作品なのかもしれないが、これは言うなれば私のような"男性に向けても"作られた非常に有意義な作品だなと感じた。背後に描かれる男性の存在も、非常に喧嘩する事なく丁度よく描かれ、保守的立場の人も進歩的な立場の人も本作をじっと見れる作品なのである。
保守的立場といえば、ジョイの"娘"の描き方も実に興味深かった。"保守的立場の家庭"に生まれた娘がジョイの行動を通して、向き合おうとする姿勢が現れていくところが見られ、この娘の賛同がジョイの意思を後押しする結果となっていてとても良かった。
"ウンミ・モサック"演じる黒人女性のメンバー"グウェン"の存在も勿論重要。彼女が置かれている立場を通じて、当時の"黒人差別の状況"がしっかりと描かれていて良かった。

お分かりいただけただろうか?分かりやすくどちらかというとエンタメ寄りの作品なのだが、本作には女性の選択の権利や人工妊娠中絶、そして人種差別など、当時の出来事が"一気に学ぶ事ができる"非常にお得で、素晴らしい作品なのだ。スタッフにはあのトッド・ヘインズの"「キャロル」の脚本家が監督"、そして"後に「バービー」を手がけるプロデューサー"が参加しているのも強すぎる。
それにとある役で、「ファースト・カウ」や「パスト・ライブス」の"ジョン・マガロ"が登場したのにはとても驚いた。彼の虜になった人も、本作を是非覗いてみてほしい。マガロの役も、非常に重要だから。

これは中絶についてだいぶ認識が遅れている日本人だからこそ、他人事にせず、見てほしい作品だなと思う。下手に難しすぎず、厳しすぎない目線で女性の権利について学ぶ事ができる作品だし、施術のシーンは割と緊迫感があるし、全てが興味深い。

"エリザベス・バンクス"が好きな人も気軽に、見てほしいなと感じました。
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