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コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのhasisiのレビュー・感想・評価

3.5
1960年代の米国、イリノイ州シカゴ。
中絶が米国のほぼすべての州で違法だった時代。
主婦のジョイは2人目の子供を妊娠。だが、周産期心筋症で命の危機が迫る。
そこで、地下組織として運営される「ジェーン」女性解放中絶カウンセリングサービスを紹介してもらう。

監督は、フィリス・ナジー。
脚本は、ヘイリー・ショア。ロシャン・セティ。
2022年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🎃🥧
[ウィル]旦那。
[グウェン]黒人の先輩。
[シャーロット]娘。
[ジョイ]主人公。
[ディーン]医者。
[バージニア]創設者。
[ラナ]隣人。

【概要から感想へ】🚬😎
ナジー監督は、1962年生まれ。ニューヨーク出身の女性。
レズビアンを公言している。
劇作家としての活動が長い。どれも原作あり。女性主人公が社会で奮闘するものが多い。
テレビ映画を経験して、今回が長編監督デビュー作です。

実在した女性団体「ジェーン」をモチーフにしています。

☎️〈序盤〉🧑🏻‍⚕️💉
どっしり空気系の体験型映画。
世間に隠れて人工中絶するのを体験してもらうための映像表現。
ネタの数極小。

主人公のジョイがアンドロイドのように静かで、感情の起伏が乏しい。
重ねるように、ジェーンの創設者であるバージニアも、ささやくように喋って穏やか。
雑誌から抜け出したような60年代ファッションもあり、みんなバービー人形のよう。

女性監督が撮る、辛い時代を生き抜く幽霊のような集団で、息子のために戦う黒人の母を描いた『ティル』とよく似ている。

なんじゃこりゃ、とは思ったけど、女性コミュニティへの参加を含めて、中絶に密着しているような感覚が得られて、未知の体験だった。
同じく60年代の中絶を描いた『あのこと』と比較すると、いかに大人しいのか分かる。

☎️〈中盤〉🥃👚
中絶の仲介。
昼間に先輩について営業している感覚が得られる。
お仕事もので雰囲気重視。
日本映画にも通じるような、ゆるい空気感が流れている。

穏やか。
ヒステリックな対立構図とは別世界で、だれとも戦っていない。
自分たちの主義に従い、目的にそって行動するだけ。
達観しているかのように隙だらけ。
叩かれないようにするとか、虚勢を張って、自分を大きく見せようとする世間体が排除されている。

☎️〈終盤〉🛌🏻🪑
中絶を助ける組織。
まるで女性だけで構成された宗教団体のよう。
需要に応えて規模が拡大してゆく。
違法行為に大人数で取り組めば、いずれ破裂するのは明らかで、ハラハラできる。

【映画を振り返って】🏛️🪧
面白い映画なんだけど、
動物的な嗅覚でつくられていて、魅力が言語化しにくい。
通常、実話モチーフの再現ドラマは退屈で、スルーする場合が多い。だが、本作の場合は犯罪のスリルがあるので途中で飽きずに最後まで楽しめた。
主人公が主婦なのも珍しく、独特な葛藤が描かれている。

楽観的で明るい。
中絶が違法な時代を描く重いテーマと対照的。
手術による出血や、逮捕劇などのシリアスな面だけでなく。
組織運営におけるストレスや衝突などもすべて削ぎ落してあるので、
気軽に楽しめる。

その分、映画的な刺激には乏しいので、評価が別れる部分だろう。
最後はすべての難局を吹き飛ばして、解決後だけが流れるのでワープしたかのよう。あっけにとられた。

[ジェーン・コレクティブ]📞
劇中だと、主人公ジョイの「ロッキー」的な成長物語として分かりやすく描かれているが、
実際は地下組織の活動であり、行われた中絶の回数は推定11000件。
1人の英雄に依存していたものではない。

調べてゆくと、シガニー・ウィーバーが演じている創設者、ヘザー・ブースの物語に突き当たる。
中絶が違法の時代に、いかにして彼女が組織を形成してゆくのか。その過程はドラマチックで、法律の抜け道。妊婦を救済してきた人の力に溢れている。
(ふつう映画化にするならこっち)

本編で一切描かれていないのは、女性であれば共感しやすい産婦人科に通う側の視点を重視したのだろう。

🧑‍⚖️ロー対ウェイド判決。
1973年。妊娠を継続するか否かに関する女性の決定は、プライバシー権に含まれる。
人工妊娠中絶を規制する国内法を違憲無効とした米国最高裁判所の判決。

人工中絶の権利が認められてから50年が経過した現在。
米国の最高裁判所は、ロー対ウェイド判決をくつがえし、人工妊娠中絶の権利が保障されなくなっている。
これにより、中絶の規制は各州に委ねられる形に。

原因は9人の最高裁判事の内、6人がキリスト教保守派であるため。
彼らは中絶の禁止を目指している。

妊娠で苦しむ女性を助ける行為が違法。
半世紀前の悲劇が、現代で復活しようとしている。
しょせん同じ人間の定めるものなので、考えの押しつけなんて事態は起こりうる。
理不尽な法律には従わない。
後ろ指さされながらも信念を持ち、地下で活動した彼女たちから学ぶものは多い。
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