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パリタクシーのhasisiのレビュー・感想・評価

パリタクシー(2022年製作の映画)
3.5
フランスの首都、パリ。
40代のシャルルは、タクシーの運転手。借金の返済に追われ、兄に金の相談をするほど生活に困窮している。
いつも不機嫌で、客からの印象も最悪だが。
92才のマドレーヌを、老人ホームへ送り届ける依頼が舞い込む。長旅を通し、生きために大切なものを取り戻してゆく。

監督・脚本は、クリスチャン・カリオン。
2022年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🗼🥖
[カリーヌ]妻。
[シャルル]主人公。
[マット]軍人。
[マチュー]マドレーヌの息子。
[マドレーヌ]客。
[レイ]マドレーヌの交際相手。

【概要から感想へ】👵🏻👨🏻
カリオン監督は、1963年生まれ。フランス出身の男性。
農家の息子に生まれるが。
映画への道を捨てきれずに転向している。
2001年に、ITで農家を成功させる『Une hirondelle a fait le printemps』でデビュー。

最初からヒットを飛ばすなど、フランス国内では人気が高い。
ジャンルはばらばら。
しいて言えば、戦争に絡めてフランスの歴史を紐解くようなものが多い。

ポスターからロードトリップのコメディを想像して、安牌かと思えば、まさかのドラマ。
※振り返り、からネタに触れてゆきます。⚠️

🚕〈序盤〉🍷🚬
パリの空はどん曇り。
オープニングから暗くて、楽しそうなポスターと印象は正反対。
(ポスター詐欺だぁ)
客であるマドレーヌの登場シーンも、ただ後部座席に乗るところからはじまって得体の知れない人物。
と思えば、回想で彼女の若い頃を小出しにするミステリー調だった。

回想と運転主との会話が頻繁に切り替わって集中力を削いでくる『アラビアンナイト 三千年の願い』と似たような形式。
本作の場合も回想の方は、50年代を反映する暴力的なドラマ。辛くて見ていられないので、
現代パートの旅の部分が、気分転換として上手く機能している。
こんなあからさまに、苦すぎて飲めないので甘くしてある薬も珍しい。

🚕〈中盤〉😪🔥
日本の怪談話のよう。
客を乗せただけで、どえらい過去を打ち明けられるチャールズご愁傷様。
老い先短い92才は怖いもの知らず。
やっぱりクスクス笑える。陽キャ監督の個性が駄々洩れてしている。

本能的。
なぜ運転手と客が仲良くなってゆくのか、の過程で置いて行かれた。
一応、描かれているのだろうが、急速。
きっと、「あ、この人とは話合うわ」とか「この人は信用できる」の、
瞬間的に判断する監督の感覚で描いてあるのだろうけど。
この辺、ハリウッドだと直しが入るので、フランス映画だからなのか、個人的すぎて飲み込むのが難しい。

やっぱりドラメディだと思う。
老人ギャグに尺がたっぷり取られている。

🚕〈終盤〉💻💌
負の連鎖、をテーマにした事件が一段落した後。マドレーヌと、その子供との後日談も辛い。
若者へ向けた教訓のようで、老人の説教の香り。
長くて重苦しい忘却の日々が心に染みてくる。

語り手を演じているのは、歌手として華やかに活躍してきたライン・ルノーだが、
そこまで違和感はない。
劇中のマドレーヌも社会的に成功しているので、
バックボーンが遠すぎず、
無理なく楽しめるのがいい。

疑似家族のような、ロマンスのような。
訳ありの老人に母性をくすぐられて介護している。
子育てものは多く、介護ものはあまり見かけないが、これも手持ち無沙汰な男性が愛情の行先を求めた物語。

介護ものでは定番の落ち、なのだろうけど、おとぎ話のようでいて、切ない余韻をのこすものだった。

【映画を振り返って】🌉🍧
ロッテントマトが選ぶ今年の良作の1つ。
(米国では2024年に劇場公開)
ポスター見て「これ絶対好きなやつ」で飛びつく。
濃厚な物語性のわりに90分で、雑談や音楽も長いのでサクッと楽しめる。
92才の人生の振り返りを軽く仕上げる辺りに経験と余裕が感じられた。

🛏️家庭の闇。
軽い口当たりに仕上げる見事さはあるが、テーマ事態は重い。
これもストーカーDV旦那を描いた『ジュリアン』と同じ、フランスに根強く残る社会問題を世界に伝えるための物語。
旦那の恐ろしさに加えて、
性別の違いがもたらす不条理は、
イランで生きる女性の辛さを描いた『聖地には蜘蛛が巣を張る』に通じるものがある。

お洒落と恋愛もどこへやら。
フランスのイメージは、移民の増加による治安の悪化に、DVの増加で、ずいぶん恐ろしいものへと変化した。
一方で、
社会的な団体が、男女の数を均等にするパリテ法に代表されるように、
マドレーヌの若い頃と比べれば、ずいぶん男女格差は緩和されてはいる。
過渡期なのか、ひずみなのかは判断しかねるので、のちの歴史家に判断は委ねようと思う。

🪩思い出のパリ。
お金があると、大抵のものは映像化できるけど、
無いお陰で想像力は養われる。
マドレーヌが生きた過去のパリも。
彼女の宙ぶらりんな思いもそのまま。
かつての日本を映像化して、感動を生んだ『窓ぎわのトットちゃん』と対照的。

現実の思い出のようにぶつ切りで終わるので、自分だったら、と想像力を掻き立てる。
残された人に託されたような。
チャールズが運転するタクシーが、今日もパリを走っているような感覚。つぎの客の身の上話を楽しみにして。
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