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ザ・キッチンのhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・キッチン(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

監督は、ダニエル・カルーヤ。キブウェ・タバレス。
脚本は監督と、ジョー・ムルタ。
2024年にNetflixで公開されたSFドラマ映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️

【主な登場人物】🏢💂🏾
[イジー]葬儀屋。
[ウージー]白人。賊。
[カマレ]ドレッド。賊。
[キッチナー卿]ラジオDJ。
[ジェイス]イジーの友人。
[ステイプルズ]賊のリーダー。
[ベンジー]主人公。11才。
[ルビー]彼女候補。

【概要からアラスジへ】👮🚔
カルーヤ監督は、1989年生まれ。イギリス出身の男性。
本業は俳優で、UFOホラー『NOPE/ノープ』では主役を演じていた。
ウガンダ人の子供で、ロンドン育ち。
父親はアフリカで暮らしており、15才まで連絡がとれなかった。
9才で戯曲を書いて、演劇の世界へ。

🪴〈序盤〉🌃🚴🏿‍♂️
近未来のイギリスの首都、ロンドン。
ザ・キッチンと呼ばれる公営住宅が密集して建つ地区がある。そこには、不法移民が肩を寄せ合って暮らしていた。
毎日、ラジオからはキッチナー卿と呼ばれるDJが、周辺地域の情報を提供してくれている。

中年男性のイジーは、1人暮らし。歯磨きに時間をかけるなど綺麗好きで、共同シャワーの使用時間が長い、と周辺住人からクレームが入る。
申し込みから8ヶ月待っていたブエナ・ビダが提供する単身用住居の順番が回ってきて、キッチンから抜け出すチャンス。物件を確保するための期限は21日で、保証金の支払いが迫る。

仕事は葬儀屋。都市部にバイクで移動し、職場であるライフ・アフターライフへ。
ビル内に植物園が設けられた緑豊かな場所。
位牌の代わりに観葉植物を提案。家族が喪に服した後は、共同墓地ならぬ自然再生プロジェクトに送られる仕組み。

トニ・クラークの葬儀の情報が入り、礼拝堂であるチャペル6へ。
少年に育ったベンジーを遠目に眺める。母の鉢植えを供えた後に話しかけられた。
昔の知り合いだ、ととぼけるが。
「父親が会いに来たのかと思った」と鋭い。

ベンジーは、イジーのバイクで自宅アパートまで送ってもらい、狭い部屋に戻った。
12歳の誕生日を1人で迎え、亡くなった母からのプレゼント。大きな包み紙を開封すると、自転車だった。
夜のネオン街に漕ぎだす。イジーを捜すが見つからず、ごろつきに絡まれる。
ステイプルズは、強盗団のリーダー。中間層のための食糧輸送車を襲撃しては、キッチンで配る義賊のような役割を果たしている。
キッチンのアジトに招かれ、寝床を提供してもらう。

朝。ダイナーで食事をしていたイジーとばったり遭遇。
武装した警官隊が現れ、私有地の不法占拠を理由に、住人たちを拘束してゆく。
イジーの部屋に隠れて難をしのぐが「ステイプルズたちとはつるむな」と注意される。
一緒に暮らすように。

🪴〈中盤〉🛼🛋️
2人で職場へ。ベンジーがサクラをして、客に葬儀場の良さを伝える。
夜は集客のご褒美で、ローラースケートのリンクへ。
ベンジーが滑っているのを眺めていたイジーだったが、友人に誘われて飲みに消えてしまう。
ベンジーは、ふたたびステイプルズに合流。ビリヤードに、恋に、ナイトクラブでのダンス。夜の遊びを覚えてゆく。

朝は仲間と食卓を囲み、パンケーキ。
ステイプルズに、水道を止められた区画や、居場所がここしかなく、政府と戦っている事情を説明される。
バイクを渡されて集会へ。

翌朝。イジーが迎えにきて、バイクは返却。ダイナーで朝食に。トーストにハムエッグにオレンジジュース。
連中が警察に捕まった時には捨て駒され、見捨てられるぞ、笑うから腹が立つ。
「とちゅうで消えたくせに」
イジーに、親なしで孤独に生きてきた身の上話をされても、ため息がでた。

カーペットにベッドに枕に電気スタンドに歯ブラシ。部屋に少しずつベンジーの物が増えてゆく。
寝床につき、ブエナ・ビダの単身用住居への引っ越しの話題に。ベンジーは、料理や掃除ならできると、アピールするが、イジーは「早く寝ろ」と聞きたがらない。
母には、父親は葬儀屋で働いていて、キッチンで暮らしていると聞いていた。
「お母さんとは上手くいかなかったけど、きっと僕を愛したはずだって」

翌朝。ダイナーでの食事中。イジーは一口も食べたがらない。「悪いな、先に用事を済ませてくる」そう言ったまま、戻ってこなかった。

🪴〈終盤〉🏙️🏍️
キッチンでは、ふたたび警官隊による強制退去か開始。仲の良いルビーの母親が拘束され、部屋に隠れていたベンジーは助けを求められた。
親と別れた者同士、ルビーと2人で夜をすごした。

ラジオ放送で住人を励ましていたキッチナー卿が抵抗中に死亡。
警察が撤収後、ステイプルズが賊を率いて弔い合戦に。
「目には目を。やつらに報いを受けさせる」
ベンジーもバイクの後ろに乗せられて部隊に参加。

バイク集団は中間層が暮らす街の中心部に到着。
モールのショーウィンドウをハンマーで破壊し、金品を奪ってゆく。
同じ肌の色の怯える住人たちを襲う仲間が恐ろしくて、
ベンジーは現場から逃げだした。

母と暮らしたアパートのベッドでぐったりしていると、心配したのだろう、イジーが訪ねてきた。
帰れ、と言っても出ていかないので、ベンジーが家を出ようとするが、体で壁をつくって向かい合おうとする。
「悪かった」
それでも、ベンジーは「嘘つき」と暴れて反抗したが、涙が頬を伝っていた。

ベッドに座り、イジーはリュックを開くと、トニの位牌である植木鉢をベンジーに手渡した。
2人はキッチンに戻り、屋上でトニの木を大きな鉢に植え替え。
別れの挨拶をすると、
よたび警官隊の強制退去がはじまった。

混乱してにげまどう人々を掻き分けて部屋にもどり、鉄の扉を閉めた。
窓から外を観察するが、街を襲った強盗団の影響だろう、警官隊の数が多い。
ベンジーは、イジーに父親なのか尋ねたが、答えは返ってこなかった。
「そうしてほしいか?」
「……これからしだいかな」
イジーはうなずき、幼いベンジーの肩を抱いた。
――外の騒ぎが収まらない。
玄関ドアを叩いていた警官隊が鍵を破壊。2人に迫ってくる。


【映画を振り返って】📻🎙️
ロッテントマトの2024年の良作に選ばれていたので、もう一回見てみようシリーズの第3弾。

近未来SF+父子もの。
格差が広がり、荒廃した未来の貧民街を舞台にしたSFに、
愛情たっぷりな男性監督が撮る「父と子の交流」を組み合わせてある。
世界観は、カナダのSF犯罪もの『CODE8/コード・エイト』とよく似ている。
イギリスが舞台なので、キッチンは不法移民が暮らす地区を再現しているのだろう。

10年がかりの脚本で、『AKIRA』がモデルだとか。
考えてみれば、ディストピアのバイク移動でよく似ている。
イジーが大佐で、ステイプルズが金田か。
回想すると重なる部分が多く、色々合点がいった。

🏗️ジェントリフィケーション。
監督は都市の再開発が直撃した世代らしく、生まれ変わってゆく町並みを目の当たりにしたのだとか。
自分たちが育った町が破壊されて、高層ビルに代わっていったのだから、印象に強く残るのも必然。
海賊ラジオ局も流行っていたらしく、現在のポッドキャストのようなものだろうか。

演出も含め、全体的に演劇を見ているような気分にさせられる。
一見すると、オーソドックスで、欲張りな作りだが。

🦇ハイブリット。
父子ものなのに、距離が遠く、ぎくしゃくしている。
珍しい子供視点。
放置された息子は、不良集団に参加して、成長してゆくが。
父親との関係も、それなりに継続されている。
孤児と、一般家庭のどちらとも共有できない感覚で、
ただよう。
どこにも居場所がなく、宙ぶらりんな状態がつづく。
俳優として成功しつつ、15才まで父親と連絡がとれなかったカルーヤ監督の子供時代が反映されている。

父と過ごしたかった子供時代の夢と現実。
祭りに父と一緒に出かけて、放置されるあの感覚が懐かしかった。
いまの映画やドラマではほぼ描かれなくなった、「父親を求める子供」を表現。
公園で遊んだり、キャッチボールしたり、自転車に乗れるまで手伝ってくれたり。
子供時代のやり残しを映画にして成仏させる。
普遍的なテーマを素直に表現していて、大人の余裕を感じた。

📦親に捨てられる。
裏切りによる離別、まで拡大解釈すると、現実の世界でも頻繁に起こる。
長くつきあった親友の裏切りから。
とつぜん組織を抜けたかと思えば、また戻ってくる人など、人間は決別と合流をくり返す。

子供だと辛い記憶。仮に親が戻ってきたとしても「またいつか捨てられるのでは?」と修復不可能なほど信頼関係にひびが入る。
それこそガラスが割れるように。

わたしの場合、相手のタイプが理解できるので、大人になってからは、特に気にならないイベントに。
育成が効いて、他人の役にたつタイプであれば、金をだまし取られた場合でも、逆に好機だと感じてしまう。
相手には罪悪感があるので、罪を許して受け止めてあげれば、以前より信頼関係は強固に。まじめに働いてくれる。

逆に育成が効かない人間に物を盗まれる、などすれば、その子が信頼を取り戻すのは難しいだろう。
セカンドチャンスは与えるが、表面的な付き合いに。本人が自覚を持って、よほど心を入れ替えないかぎり、裏で舌を出し、同じ過ちを繰り返す可能性が高いからだ。
(……ゲスい大人に育ってしまった)

裏切る方を擁護しているようだが、一度きりの人生だから色々試してみるといい。
外の世界を知れば、いかに今まで恵まれていたのかを知れるし。
失って初めて大切なものに気づくだろう。
若者の成長は寛大な気持ちで見守りたい。

🌍難民の行方。
今年の4月。イギリスでは、不法入国者をアフリカのルワンダに強制的に移送する法案が議会で可決された。
ルワンダは年10%の経済成長をするいまイケイケの国。
難民受け入れの実績も高い。
イギリス政府からは、約460億円が援助されている。

人を売り買いするようなもの。
移民の2世であるカルーヤ監督にとっては、避けては通れない問題。
イジーが働く葬儀屋の話では、亡くなった人はどこかの自然の回復に役にたっているのだとか。
イギリスで生まれたベンジーにとっては、祖国から追い出される異常事態に。

――映画内の出来事と現実が連動していたのだが。
保守党に代わり、7月に労働党のサー・キア・スターマーが新首相に就任。
(14年ぶりの政権の奪還)
ルワンダ移送計画の廃止を表明した。
ルワンダは460億円を払い戻す義務はない、との見解を示しているが、
とりあえずは一段落。

ベンジーたちが、見知らぬアフリカに送られる危機は回避した。
映画が描いた最悪の未来が改変され、世界をより良くするのに貢献できそうで、表現の力を感じる。
不法移民問題が解決されたわけではないが、非人道的な行いによって過激化してゆくのは避けたい。

スターマー首相は、中東・アフリカ諸国に約171億を提供し、彼らの暮らしの改善による移民阻止を目指す、と発表している。
受け入れると衝突するので、祖国で人間的な生活ができるように協力する。
根源の解決を目指す彼らの動きに、今後も注目していきたい。
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