耶馬英彦

ドント・ウォーリー・ダーリンの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

4.0
 かなり面白い作品だった。ひと言で言うと、映画「マトリックス」に似たような世界観である。こちらはSFアクションではなく、SFドラマだ。

 デザイナーがいて小さな世界を構築するが、住民のキャラクターはランダムにしたい。そこでインターネットで公募して、条件に従う者たちだけを登場させる。反体制的な輩は排除するのみだ。
 サラリーマンと専業主婦の画一的な家庭が軒を連ねる住宅街が主な舞台で、ベニー・グッドマンの「Sing Sing Sing」が流れているのと、自動車の形からして、1950年代の世界が理想らしい。アメリカのパターナリズムの全盛時である。

 マインドコントロールや緩やかな思想統制があっても、衣食住が満ち足りているか、十分だと納得していれば、人間は逆らうよりも従うことを選ぶ。いわゆる奴隷根性だ。それに逆らえば不幸が待っている。窓ガラス掃除のときに壁が迫ってきて圧死しそうになるところは、その象徴的なシーンだ。

 人生は自分で選ぶものだという実存的なテーマを、アメリカ映画が取り上げるのは珍しい。設定のディテールに整合性が欠ける部分があるのが憾みだが、本作品はよくあるハリウッドのB級映画ではない。LGBTに反対するようなアナクロニズムに対するアンチテーゼなのだ。現代に相応しいアメリカ映画と言えるのではなかろうか。

 フローレンス・ピューは、映画「わたしの若草物語」と「レディ・マクベス」の演技がいずれも秀逸だったので、最近注目している。外国人女優としては小柄なのに、その存在感は他を圧倒しているのだ。本作品の演技は期待を遥かに上回って、作品の設定も世界観も、この人を中心に回っているような気さえした。作品にさえ恵まれれば、今後も活躍すること間違いなしだ。
耶馬英彦

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