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僕らの世界が交わるまでのnetfilmsのレビュー・感想・評価

僕らの世界が交わるまで(2022年製作の映画)
4.1
 自己肯定感の低い母子の歪な交わりを描いたただそれだけの映画ながら、とにかく丁寧な描写の積み重ねをもって弁証法的な結論を導き出そうとする様子に好感を持った。DV(ドメスティック・バイオレンス)に傷ついた人々をかくまうシェルターを運営し、社会奉仕に献身的に取り組む意識高い系の母親エヴリン(ジュリアン・ムーア)は、ライブ配信で音楽活動をして2万人のフォロワーを持つ高校生の息子ジギー(フィン・ウォルフハード)と今やすれ違ってばかりいる。2万人のフォロワーがいればもはやそれは立派なインフルエンサーなのだが、同じクラスの政治活動に熱心で、詩人を夢見るライラ(アリーシャ・ボー)に秘かに恋心を寄せている。ジギー君は人気Youtuberの癖に、ひたすら背伸びしていてだいぶ痛い。ライラの意識の高さは正に母親エヴリンの気性そのもので、主人公の初恋は母親への憧れそのものなのだが、低空飛行を繰り返す。

 冒頭のA24のロゴにも驚いたのだが、何より今作が『ソーシャル・ネットワーク』の主人公を演じたジェシー・アイゼンバーグだと知り、二重に驚いた。もしかしたらジェシー・アイゼンバーグの思春期に着想を得た物語なのかもしれない。はっきり言ってアメリカ映画らしからぬ地味な展開には拍子抜けしつつも、いまいち噛み合わない親子関係に頭を悩ませる人々には必見の映画である。自身が腹を痛めて産んだ子供に愛想尽かすわけではないだろうが、どんな家でも親というのは自分の子供の育て方を間違えたのではないかと思う瞬間が一度や二度ではない。近年は娘と姉妹のような雰囲気を醸す親子も多いと聞くが、エヴリンはドアの向こうの息子ジギーの様子に気を払いつつも、宇宙人を生み出してしまったような後悔にも苛まれるのだ。流石にジュリアン・ムーアの息子がZ世代のティーンというのは無理がある気もするが、トタンに取り付けた放送中の警報をアリバイにしながら、憧れの女の子の詩に触発され自慰行為に浸る。いわゆるインターネット以降の実感という事象に対する世代間のレイヤーの変化を取り扱う映画は、『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグとは対照的な様相を見せる辺りが痛快極まりない。
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