Noboru

ザ・ホエールのNoboruのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

劇をもとにした映画なので、基本舞台はチャーリーの部屋であり場面の展開が少ないながらも、深いテーマ性と人の感情を深く揺さぶる主演の演技には大きく感動した。

本作のテーマが持つ人の抱える感情の矛盾、善悪の不確かさなどは他の人もよく語っているので、そこではなく世代論的視点からこの映画を考察してみる。

エリーは父親に捨てられ、母親にも見放されており、その上素行不良から学校にも見放されている。それはある意味、社会から疎外され、SNSでのみアイデンティティを見出そうとする現代の若者を表していると感じた。

また、チャーリーは正直ではあるがわがままを貫き愛する人を裏切った事、そして自暴自棄になり食べ物に固執し異常に太った姿が、限界を迎えた資本主義の成れの果ての親世代の象徴のように感じた。

ここで、エリーがチャーリーに対し恨みを抱くことは、昨今グレタが象徴するように気候変動の問題を次世代に押し付けようとしている親世代を連想させる。

多くの問題を押し付けられ、もはやリアルにある意味諦めを感じているエリーは自暴自棄になっておりニヒリズム的心情から周りは敵だらけであり、親切にする事に意味などないと感じている。これは社会に通じる若者が持つ閉塞感、鬱屈感を表している。

さて、物語の展開としてチャーリーはエリーに対し贖罪としてエッセイを手伝うのだが、チャーリーは常にエリーの中にある正直さ、そして本人が意図しているかはわからないが他者を思いやる気持ちを感じ取っている。それは、人が生まれながらにして備わっている特性なのだとチャーリーは信じており、それがエリーの中にあるのだと最後のシーン命をかけて伝えようとする。他者を思いやるその気持ちがあれば大丈夫だと。

ここは、非常に感動するシーンであるとともに次世代への大きな監督からのメッセージを感じた。次の世代に抱いてほしい感性とある意味無責任な希望である。

色々な視点、考察を考えさせることができる非常によい良作だったと思う。
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