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ザ・ホエールのryo0587のレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.0
全編室内・最小限の登場人物で、かつメタファーに富んだとても内省的な作品。

なのに、登場人物の剥き出しの感情が痛々しいほどに迫真で、強く胸を揺さぶられた。

最初から最後まで飽きることなく引き込まれた。

最大の立役者であるブレンダン・フレイザーの、素人でもアカデミー賞受賞だと納得せざるを得ない、異様な存在感。

狭い画角を一杯に占める圧のスゴいことスゴイこと。

文字通り命を削って喰らう様には言語化できない凄みがある。

フレイザー以外の登場人物も引けを取らぬ名演(特にセイディー・シンクのベテランに引けを取らない堂々とした様たるや、『ストレンジャー・シングス』から応援しているので嬉しくなった)。

戯曲が原作らしいが、役者の底力と映画での役割の重要性を思い知らされた。

役者の力を信用し切っているのだろう、1人の人物をアップ気味に映したショットが多く、技巧を廃したシンプルな構図で全体が構成されている。

死を前に機能不全に陥った家族関係の修復を試みるチャーリーは監督の過去作『レスラー』を想起。過去作と違い報われたことには安堵した。

チャーリーが冒頭から心の拠り所にしていたエッセイの作者が実は、、、という展開には涙せずにはいられなかった。

チャーリーは確かにかつて間違いを冒したかもしれないが、それでも心の中心には常にエリーが居たことは嘘偽りない本心だったし、最期のほんの一瞬とはいえ贖罪と救済が成就されたことに、こちらも救われる気分だった。

エリーやチャーリーのように人間はアンビバレントな性質を有しており、決して聖書が説くように純粋なんかじゃない。
それでも人間(というか最愛の娘)の善性を信じて逝けたチャーリーは、幸せだったのかも知れない。

救いは他人や、まして神とか聖書に与えられるものではなく、自分に一番近い人との絆から得られるというテーマは大変人間主義的だが普遍的だと思う。

僕も『白鯨』を読んだエリーと同じように、本作を鑑賞し自分の人生について考えてしまった。

自分もいつか他人との間に確かな絆を得て自分の家族を持ちたいと思う。

書くことをテーマの一つに据えた本作の影響か、感想がいつになくセンチメンタルになってしまった

エンディングも切れ味鋭く本当に素晴らしい
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