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ザ・ホエールのKuutaのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.5
舞台の映画化だそうで、脚本や演技は良いが、映像的には「室内劇を退屈せず2時間持たせる」以上の魅力が感じられず、これくらいの評価に。

スタンダードサイズを占有するチャーリー(ブレンダン・フレイザー)の巨体が、内に溜め込む執着や現実の重苦しさを語っていて、このアイデアは面白い。序盤に彼の重さを強調しつつ、中盤以降登場する車椅子によって会話に動きをつけている。

チャーリーは見た目は白鯨だが、補助器具無しで歩けず、自分の居場所にこだわって自ら死に向かうことから、白鯨に取り憑かれた船長でもある。食べる快楽と自傷性、肉体を通して矛盾する概念を両立させるアロノフスキー得意のパターン。

自慰行為に始まる今作は、どのキャラクターも自分の欲望を持ち、それが誰かの救いになるのだと身勝手にも信じている。ラストシーンの「奇跡」も部屋の中の自己満足に過ぎず、白鯨を殺すことには何の意味もない。ただ、チャーリーが心の拠り所にしていたエッセイは、無意味な物語が人に救いを与える可能性を認めていた。

看護師の「下で待ってる」という最後のセリフ、次会う時は地に帰る肉体なのだという意味に加え、チャーリーの現実の重さとは対照的に、この部屋が地上から半分浮き上がった船だったことを想起させられた。

こんな感じで脚本はなかなか興味深い。保険制度など米国特有の事情のようでいて、セルフネグレクトは日本でもたびたび起きている問題だし、社会的要素も盛り盛り。ただどうしても、アクションに乏しいのが物足りない。ラストで動きを取り戻すことについても、彼にとってどんな意味があるのか、もっと踏み込んで描いて欲しかった。
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