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ビリーバーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ビリーバーズ(2022年製作の映画)
3.6
 夢診断、夢報告、夢占い。別に言い方やニュアンスは何でも良いんだけど、夢の中に展開された無意識が果たしてどこまで己の心と繋がっているか否かは実に興味深い。彼らの午前中は昨晩見た夢の報告に終始し、細部に至るまで正確な報告が求められるのだけど、自らのあっけらかんとした心象風景を吐露することに3人ともに躊躇する。山本直樹原作のコミックの物語を城定秀夫が実写化した物語は、宗教団体「ニコニコ人生センター」にハマった3人の信者の孤島におけるカルトな生活記録を逐一描写する。「オペレーター」(磯村勇斗)、「副議長」(北村優衣)、「議長」(宇野祥平)と呼び合う3人の男女は互いの本名を知らないまま、互いの心を曝け出す様なディスカッションを繰り返す。3人はいわゆるインターネットの絵文字が付いた揃いのTシャツを着ている。彼らの孤島生活はおそらく東京にあるだろう本部によって管理されている。着る物はおろか、食べるものまで管理され、ひたすら禁欲的な生活を強いられる。冒頭から観客は既に円環の只中にいる。この円環の始まりにこそ興味があるものの、3人の姿はユートピアを目指す狂乱の旅の中に在り、なかなかにわけがわからない。

 残念ながら山本直樹原作のコミックは未読だが、心は可視化させられるが、体は禁欲というのがおそらく今作の厳格な心理実験だろう。自分が真実を話せる相手が恋人・友人・家族で一体どこまでの範囲なのかと言われれば各々の見解があるだろうが、恋人で言えば肉体関係を持つことで自由闊達に話せるようになるというのは理由はわからないが「あり得る」話だと思う。ところがこの危険なトライアングルは肉体関係を持つ前にそれぞれの秘めたる思いを明らかにする辺りが通常の異性関係と明確に違うのだ。おまけに殺人も含むから話はややこしい。女1人に男2人を孤島で3人きりにするというアイデアそのものが相当に意地悪で、文明から切り離す極限状態は、人間を男と女からオスとメスへと変貌させるのだ。円卓を囲む3人の様子をぐるぐると360°パンで忙しなく撮影すると思ったら、中盤からは「議長」の苦しみと恍惚が織り混ざったリビドー溢れるカタルシスにカメラの動きが呼応し、忙しなく回転を繰り広げる。獣のように愛し合うことで地上の煩悩を捨て去った3人は集団的な同調圧力を脱し、ただ純粋に人間としての欲望で動き始める。いつものように飄々とした宇野祥平も魅力だが、曝け出すような演技を見せる磯村勇斗と北村優衣がとにかく凄い。しかし宗教的浄化とテロルの季節とは時期的にも運が悪かったか。
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