Jun潤

はい、泳げませんのJun潤のレビュー・感想・評価

はい、泳げません(2022年製作の映画)
3.4
2022.06.15

長谷川博己×綾瀬はるか。
大河主演と日曜劇場主演を経験した2人がまさかのテアトルグループ作品で共演!邦画界に激震レベル。
最初のビジュアル解禁あたりから気にしていましたが、タイトルとイラスト以外の情報がしばらくないのものだから、果たしてアニメなのか、それともひねったストーリーなのか、かと思いきやなんとタイトルそのままのド直球ストーリー。

過去のトラウマから泳ぐことができなくなってしまった大学教授の小鳥遊。
カッチカチな独自理論を展開して水に近付きすらしない小鳥遊はある日ひょんなことからスイミングスクールに通うこととなる。
強引に、しかし着実に小鳥遊のことを導いてくれる静香コーチの教えの元、小鳥遊は徐々に泳げるようになっていく。
そして、小鳥遊の水に対するトラウマは、過去に起きたとある悲劇の記憶へと繋がり、水と触れる中で小鳥遊はその記憶と向き合うことになっていく。

むむむ、、これは、、、。
物語の大筋として、それまでの経験から諦めることも受け流すことのできないトラウマ、かといって周囲の誰かに頼れるほどの年齢でもない、過去だけでなく未来もある、そんな静かにゆっくりと着実に沈んでいく人生を好転させていく過程を、水泳の練習を通して描いていく過程と、その結果として着地する結末としては見応えもなくはなかったです。
しかし、そこに付随しているいろいろな要素がノイズ、というより作品のスピード感を遅らせてしまっていました。
それも序盤から全要素アクセル全開でくるものだから、ジリジリ下げに下げてからスロースターターで上げにかかってくるような構成で、睡魔に負けてしまった…。

しかし人間はみんな自ら生まれてきたという、人類の進化論ではなく母体の中にいる時は羊水に浸かっていたという、青年期や幼少期の自分のルーツではなく、さらに遡ってヒトの原初に還らせる上で、水の中、泳ぐことを扱うのは粋な物語でしたね。

演技で印象に残ったのは長谷川博己と、彼が演じた小鳥遊の前妻役・麻生久美子ですかね。
長谷川博己については水中の演技が印象的で、息継ぎだとか必死に息を止めている間の、陸で演技をするよりも難しい中で悲しみや喜びの表情がわかるように演じていました。
麻生久美子に関しては序盤の胡散臭い関西弁の姿から一変、中盤の過去に囚われる様や終盤で起きた奇跡に救われる姿など、最初のイメージを覆し続ける演技が印象に残りました。

水の中では小鳥遊のことを強く導いていた静香も、陸の上では車に怯えてばかり。
それは単なる恐怖か、過去に起因するトラウマか。
今作は水と泳ぐことだったけれど、もしかしたら車からも大人が成長できるドラマが生まれるかもしれない、そんな可能性も感じられる作品。
そういえば車の揺れが心地良すぎてついつい寝てしまう現象に名前が付かないだろうか…。
Jun潤

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