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キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性のmegurosのレビュー・感想・評価

4.0
映画キャスティングの第一人者マリオン・ドハティを軸に、キャスティングの歴史と現在を映したドキュメンタリー。

映画史初期において俳優はスタジオ毎の専属(これは日本においてもそうだったが)で、となるとキャスティングにおいては、本人がその映画に最適な役者かどうかはむしろ関係がなく、スタジオ専属の”スター”であることが重要。映画の中に登場する役柄にもある種の型化がなされ、俳優はひたすら当たり役となった型を演じ続けて似た役ばかりをこなしていた(つまり映画スターは役者ではなかったと語られる)。

テレビ番組からキャリアをスタートしたマリオンは作品とその中の役に求められる本質を掴み、ブロードウェイの舞台に上がっている無名の役者の中から本人すら知らなかった個性を見出してキャスティングを進める。スコセッシは「映画の9割はキャスティングで決まる」と語るが、マリオンがキャスティングに就いた映画が軒並みヒットを重ね、無名の若者たちは次々とスターに。時には監督と対立してまでキャスティングのプロとして映画の成功に寄与していくが、長らくその多大なる貢献は評価がなされず、クレジットさえされない時期も長く続いた。アカデミー賞にはいまだにキャスティングのカテゴリがないそうで、反対をしている全米監督協会の会長も登場するが、この人は映画の何を見ているのだろうと不思議な気分になる。※ちなみに、BAFTA(英国アカデミー賞)は2019年にキャスティングカテゴリを新設。

このドキュメンタリーで最も感動的だったのは、リーサル・ウェポンにおいてマリオンにダニー・グロヴァーを推薦された時のことを語るリチャード・ドナー監督のエピソード。脚本にはメル・ギブソンの相方に肌の色は書かれていなかったが自分は知らない間に偏見をもって役柄を見ていた、その後の人生観すら変わる出来事だったと語られ、マリオンが与えた影響はキャスティングに限られたものではなかったとも感じる。

本作は2012年製作、そこから10年経って日本では公開となった。Web記事で今回の公開を進めたテレビマンユニオンの方のインタビュー記事が読めるが、この映画が作られたのは#metoo運動よりはるか前のこと。現在に至る映画を支え、後進を多く育てた偉大なる女性がいたことは今こそ再発見、再評価されるべきという点においても必見。

そしてその視点に立った時に、改めて日本映画のキャスティングを考えたい。我々はマリオンが活躍しだした1940年アメリカと比べて、どこまで前進できているのだろうか。
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