耶馬英彦

まなみ100%の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

まなみ100%(2023年製作の映画)
3.5
 先日鑑賞した「道で拾った女」と同じ、いまおかしんじ脚本である。日常的な台詞が目立つ脚本だが、シチュエーションによって、日常的な台詞を非日常的なものに変えようとする。
 本作品では「結婚しよう」である。様々な場面で同じ台詞を繰り返すことで、主人公の他人との距離の変化が明らかになる。同時に、主人公の依存体質も露呈する。
 まなみは、三つの台詞を繰り返す。
「君はやっぱりバカだね」
「本気じゃない」
「君は子供だ」
 まなみは、現実に対して、斜(はす)に構えて、いつでも逃げ出せるようにしている主人公の姿勢を見抜いているのだ。他人の人生を引き受ける覚悟もないのに、自分だけが他人に幸せにしてもらいたいという調子のよさは、無責任で欲張りな子供そのものだ。
 自分のことを一番わかってくれているのがまなみであると確信している主人公は、孫悟空のようにまなみの広大な手の平で自由になりたいと願っている。多分まなみのことを菩薩か何かと勘違いしているのだろう。

 しかしまなみは人間だ。悩みもあれば、好き嫌いもある。そして不安と恐怖もある。他人を簡単に包み込むことなどできはしない。
 主人公がそのことに気づくのに10年を要したのである。それで漸く、長かった青春に別れを告げることができた。そういう作品だと思う。
耶馬英彦

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