耶馬英彦

青春18×2 君へと続く道の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

青春18×2 君へと続く道(2024年製作の映画)
4.0
 西島三重子の「千登勢橋」という歌に、次の歌詞がある。

 胸の想い言い出せなくて 遠くでカテドラルの鐘
 思わずこぼれた涙を拭いて 無理に笑った風の中で
 心のすべて燃やした恋を いつも見ていた橋の名は
 千登勢橋です あなたの淡い思い出に
 こうして逢いに来ては ひとり佇んで
 あなたがくれた青春を 抱きしめて目を閉じます

 只見線を扱った映画「霧幻鉄道 只見線を300日撮る男」では、只見線と奥会津をひたすら撮影し続けるフォトグラファーの星賢孝さんを中心に、奥会津をもり立てていこうとする地域の行政と住民の努力が描かれていた。本作品の絵ハガキの写真は、星さんの撮った写真にとてもよく似ていたから、もしかすると星さんの写真が使われているのかもしれない。

 レールデュタン(L’Air du Temps)は夜間飛行(Vol de Nuit)に並ぶ有名な香水で、世界的に人気がある。価格はセレブ御用達のシャネルNo.5の10分の1から20分の1くらいで、庶民にも手が出る香水だ。日本人は体質的に無臭の人が多いから、あまり香水を必要としない。微かに香るくらいがちょうどいい。レールデュタンはそういう香水だ。絵ハガキからレールデュタンが香るのは、とてもお洒落な気がする。

 アミの可愛らしい顔、包んでくれるような優しい声、繋いだ手のぬくもり、そして香水の匂い。同じ匂いを嗅ぐと、思い出が鮮明に甦る。ジミーの青春。淡い恋。

 出会いには、いつも別れという運命(さだめ)がある。中国の詩人白楽天が「逢うは別れのはじめ」と歌ったとおりだ。人は歳を取り、やがて死んでいく。壁は朽ちて壊れ、ランタンは上空で燃え尽きて落下する。芭蕉が言った通り、人生は旅である。無常だが、邂逅がある。人生は楽しい。

 藤井道人監督の、新しい境地を観せてもらった気がする。本当に美しい作品だった。
耶馬英彦

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