耶馬英彦

革命する大地の耶馬英彦のレビュー・感想・評価

革命する大地(2019年製作の映画)
4.0
 1776年6月にアメリカのバージニア権利章典、1789年8月のフランス人権宣言が採択された。いずれも、基本的には人間の自由と平等の権利を謳ったものである。それから200年以上経過したが、いまだに自由も平等も実現していない国や地域がたくさんある。ペルーもそのひとつだ。

 本作品は、不自由と不平等の蔓延する国の現状を打開しようとした軍人ベラスコ将軍の話が中心になっている。16世紀はじめにスペインの軍人ピサロによってインカ帝国が滅ぼされ、入植したスペイン人が支配していて、彼らが本国スペインからの独立を果たしたのが1824年で、ちょうど200年前だ。独立と言っても民族自決ではない。先住民であるインディオやメスティーソ、黒人、それに女性の権利は依然として蹂躙されたままだった。

 1968年のベラスコ将軍による軍事クーデターが革命と呼ばれる所以は、もちろん本人が革命と呼んだこともあるが、農地改革によって寡頭地主を追放して、土地が農民に分与された。ペルー革命は必ずしも上手くいった訳ではないが、少なくとも国民全員が政治に参加できる体制を作ることができた。
 ベラスコは中国やソ連、キューバといった共産圏の国々と国交を結んだが、どうやらそれがCIAの不興を買ったらしい。CIAは1947年の設立時から、反共活動を中心にやってきているから、共産主義国に近づいたベラスコを裏工作で失脚させたようだ。共産圏の諸国との共存を訴えたJFKを暗殺したのも、おそらくCIAである。
 ベラスコ失脚以降の政権は、交代して腐敗を繰り返しており、ペルーの国民の生活はなかなか豊かにならない。世界はグローバル化しており、鎖国して生きられる国は殆どない。他国との取引で国民生活を維持するしかないのだ。そうすると、経済的な失敗や株式の暴落、オイルショックなどの出来事のしわ寄せは、どうしても弱い国に集中する。そうやって大国は生き延びてきたのだ。人間の自由と平等がなかなか実現しないのと同じで、国の自由と平等もなかなか実現しない。

 フランス革命のスローガンは自由、平等、友愛である。トリコロールの三色は自由、平等、友愛を示していると言われる。自由と平等は分かるが、どうして友愛なのか。
 高校の世界史では教えてくれなかったが、自分なりに考えてみた。人間の自由権は、他人の自由権を損害しない限り、保障されている。しかしそうすると、豊かになる人と貧しい人の格差がどうしても生ずる。これを平等にしようとすると、自由権の侵害になる。自由と平等のパラドクスだ。
 フランス革命の指導者たちは、この問題に気づいたのだと思う。自分の権利も主張するし、他人の権利も尊重する。しかしそれだけでは平等は実現しない。解決するには寛容と優しさが必要になる。それが友愛だ。具体的に言えば、たとえば税金を困っている人たちのために使うことに賛成することなどである。
 汚職政治家の精神に、友愛はない。友愛のない政治家に投票している有権者にも、もちろん友愛はない。裏金問題を言い訳する政治家の演説にも、友愛はない。友愛のない演説は、すなわちヘイトスピーチだ。最近は、友愛が失われ、逆にヘイトが急増している。これは世界的な傾向だ。それは自由と平等の危機であり、戦争の予兆でもある。
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