Kuuta

カリガリ博士のKuutaのレビュー・感想・評価

カリガリ博士(1920年製作の映画)
3.8
岐阜県に養老天命反転地というアートな公園がある。迷路、歪んだ家、デコボコの地面、大半の展示物が斜めの角度で設置されている。

作り手の荒川修作は、幼い頃から死や肉体が永遠に消える事を恐れ、「死なないこと」をテーマに公園を作ったという。曰く、人間の内面に眠っている五感を呼び起こせば「天命を反転」し、死を乗り越えられるのだそうだ。ロシア宇宙主義に近い。

ここでドラッグによる神秘体験に行くとオウムやミッドサマー感も出てくるのだけど、荒川は物理的に平衡感覚を壊しにかかる。かなりの傾斜に、身の危険を感じる瞬間もある。宮崎駿はこの場所を「子供は元気に走り回るが、大人は骨折をするんです」と評し、絶賛したというが、小雨降る日に訪れた私は坂で尻を強打し、友人の生暖かい笑顔に包まれたのだった。

そこで、カリガリ博士であるが、歪んだ心境を歪んだセットで表現するという明快なアイデアにより、虚構と現実の入り混じった映像を生み出す事に成功している。

デフォルメされ尽くした画面はハリウッドには真似できないだろう。これを受容できるリテラシーや、権力への反発心が当時のドイツ国民にはあったのだろうし、この豊かさをまもなくヒトラーが台無しにしてしまう事も含め、奇跡的な映画だと思うが、私にとってはあの尻の痛みの記憶が蘇る、その一点において現実と虚構が入り混ざる作品である。76点。
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