Kuuta

NOPE/ノープのKuutaのネタバレレビュー・内容・結末

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

▽ジュープから考える
OJシンプソンはお茶の間の見せ物にされた。ピールがTwitterで公開したGordy's Homeのオープニングにはスペースシャトルが映るが、これは発射失敗が中継されたチャレンジャー号であり「TVで消費された悲劇」の上にある娯楽を示唆する。

その構造をハリウッドを模したテーマパークで繰り返そうとするのがジュープ。しかし、ジュープを単なる金の亡者のように捉えるのには疑問だ。自分の手を気にする素振りや、パートナーの女性に手を触られた時の表情には、かつての経験がトラウマとして残る様子が見てとれる。

手が触れるかどうかの瞬間にチンパンジーは殺された訳で、「通じ合えたのかもしれない」という未知への期待が彼を突き動かしていると言える。中身の読めない男をスティーブン・ユアンが好演している。

▽ピールの作家性と娯楽性の捻れ
事件の顛末を説明する場面と、ジュープが実際に見た光景にはかなりのギャップがある。ショーを企画したのは、自己顕示欲とトラウマの解消、「搾取する側と搾取される側」双方の感情が入り混じっている。ベールで顔を隠しつつ、小役時代の写真が印字されたTシャツを着る女性の矛盾と同じだ。

この映画が若干分かりにくいのは、これはピールの作家性とも直結する問題だが、キキ・パーマー演じる妹も、UFOも、ジュープと同じ二面性を持っているからだ。妹は父親に無視された傷を負う一方、一攫千金を夢見てUFOから搾取しようとする。

UFOは黒人から金を巻き上げる観客や資本主義の横暴を体現する一方で、戯画化され、好き勝手に扱われてきた動物やマイノリティの象徴でもある。

だから、ラストでUFOが倒された時、爽快に感じて良いのか?と私は思った。それは我々の写し鏡でもあるはずだからだ。馬の名前を命名し、包摂したものだと思っていたのに。「交換可能性」「反転」といったピールのモチーフは今作でも変わらないが、娯楽作としての終盤の疾走感が、どこか後味の悪さとなって残った。

深読みするとこの感情は、ジョーズのオマージュ作である以上当然と言えるが、ジョーズの元ネタのゴジラのような、怪獣映画の趣きを含んでいる。

ただ、怪獣映画として評価しようとすると、巻き込まれる人物も建物も少なく「スペクタクル感」に欠けるのがどうしても残念だ(安易に搾取する観客に回る私)。

▽ジョーズの良アレンジ
「ピールはスピルバーグの後継者」と鼻息荒くする人の気持ちが今までよくわからなかったのだが、少し合点が入った。

機械のような無機質な暴力との陣地合戦。めちゃくちゃジョーズだ。あの映画では荒野が海に置き換えられていたものの、演出はかなりの部分を西部劇から引用し、キャラの設定によって社会的なテーマを織り込んでいた。

今作はジョーズを荒野に連れてくる。「娯楽じゃねえぞ現実だぞ」と言わんばかりにスクリーンを越える演出を盛り込み、IMAXの映像と音で、観客を「虚構から現実に目を向ける」ようにねじ伏せる。

(最後にフレームに入り、OJはキャラクターと化す。半死半生、虚実が一体化したヒーロー。つまりシェーンだ)

観客が投げ捨てた5セントに、父親は目を潰されて死ぬ。UFOがカメラ=観客の目と化して黒人を痛ぶる構図。女性を襲うジョーズの主観を「楽しんだ」のもわれわれ観客なんだと突きつけてくる。

銃の代わりにショットで仕留める。馬小屋で何かが迫ってくるシーンも、銃ではなくスマホを構える。映像で人を殺せる今の時代の風刺でもある。

もったいぶりすぎな感はあるが、 UFOやオカルト番組は大好きなので、前半は夢のような内容だった。馬小屋で近づいてくるのは完全にチュパカブラだと思ったし、地球はもうおしまいだと思った。

後半はしっかりとUFOが写り、白石晃士映画を見ている感覚に。クライマックスで兄妹のどっちを襲おうかオロオロするUFOが愛らしく、暖かな気持ちになった。が、色を失いながら観客が目を閉じていくエンドロールとラストのダメ押しには、確かな悪意とある種の諦念を感じた。

▽アクション不足
馬で家に近づく兄と、バイクで家から逃げる妹の対比は反転描写として素晴らしかった。特に兄のショットは力入ってて最高。

見ないフリをするのがマイノリティの生きる術、主人に目を合わせてはいけない黒人奴隷→最後に目線を上げる→「反転」して妹が爆走、金田バイクで再び「反転」。これは上がる。文字に記録されなくても、運動を眼差した人がいるというオチはジョン・フォード得意の展開でもある。最後は上下がひっくり返った写真。

ただ、全体にアクションは物足りなかった。閉鎖空間でのサスペンスは上手いが、移動のダイナミズムは弱く、ここはどうしてもスピルバーグには及ばないと感じた。76点。
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