Rick

NOPE/ノープのRickのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.5
 我々は銀幕に映る「スペクタクル」を見る。カメラが撮る物体を、風景を、動物を、人々を、「何か」を、泣いたり笑ったりしながら「見せ物」として「消費」する。意識的か無意識的かは別にして、望む望まざるに拘らず、「見る」方は常に安全圏にいる強者になる。そもそもが非対称的で、ある種暴力的な仕組みを内包しているのが映画というものだ。では「見られる」側が耐えきれず、異議申し立てをしてきたら?そんなことは、ありえない?見て見ぬふりをしているうちに、きっと我々は足元を掬われて、「見られる」側に回っているに違いない。近い将来でもなく、今この時に。
 基本的には安全圏にいるはずの観客が、この映画ではずっと、空にいる「何か」に見られることになる。その時に初めて、被写体であることの恐怖と理不尽さについて思い至ることができる。同じく地べたから空を見上げる人たちが互いを見つめ合って確かめ合う、優しい視線があることに気づけるのだ。
 ずっと「なんだこれは」が頭から離れない。描きたいことや狙っているものはストレートで、分かり易ささえあるというのに、見ている映像が、見たことあるようで見たことのない異次元のものだった。ホラーでもあり、SFでもあり、紛うことなき西部劇でもある。その訳のわからなさが、きちんとスペクタクルになっている。映画の本質を、同時に社会が孕む歪みを、ここまで上手くスペクタクルに仕上げるジョーダン・ピールの手腕が一番恐ろしいのかもしれない。
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