サマセット7

NOPE/ノープのサマセット7のレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.9
監督は「ゲットアウト」「アス」のジョーダン・ピール。
主演は「ゲットアウト」「ユダ&ブラックメシア裏切りの代償」のダニエル・カルーヤ。

[あらすじ]
アメリカ西部。
馬用の牧場を経営するヘイウッド・シニアは、空からの落下物により頭を打ち命を落とす。
息子のヘイウッド・ジュニア(ダニエル・カルーヤ)は引き継いだ牧場の経営に頭を悩ます中、馬の失踪に遭遇し、牧場の空に「何か」が潜んでいることを確信する。
彼と妹のエメラルド(キキ・パーマー)は「何か」をカメラに捉えて映像をテレビ局に売ることを企図するが、予想を超えた恐怖が彼らを襲い…。

[情報]
コメディアン出身ながら、「ゲットアウト」「アス」といった社会批評性を込めた新機軸のホラームービーを生み出した、監督・脚本家のジョーダン・ピールによる、2022年公開の3作目の長編監督作品。

今作では、予告映像からして「未確認飛行物体」というSFホラー的な題材を扱っているかに見える。
ジョーダン・ピール作品は、前2作とも、作中でジャンルの飛躍が見られたが、今作でも踏襲されている。

今作は6800万ドルの製作費をかけて作られた。
ジョーダン・ピール作品としては、「ゲットアウト」の予算450万ドルと比較して、大幅に増額されている。
ジョーダン・ピールの積み重ねた実績の成果であろう。
興収は1億7000万ドル超で、そこそこのヒットとなった。

今作は批評家から一定の支持を受けた。
一方で、一般層の評価は分かれているようである。
どちらかと言えば、カルト映画的な評価に見える。

[見どころ]
空に潜むのは何か!?
スティーブ・ユアン絡みの印象的で恐ろしいエピソードの意味とは?
今作にジョーダン・ピールが込めたメッセージとは?
いくつかの謎が牽引する、予測不能な展開!
終盤は、テンションが上がる!!

[感想]
変な映画!!!面白い!

冒頭から、チンパンジーが登場するシーンのインパクトが強い。
こちらを見つめるチンパンジー…。

全編に、広大な荒野を舞台にしており、馬もたくさん出てくるなど、西部劇のような雰囲気が漂う。
そんな中、馬を乗りこなすダニエル・カルーヤとキキ・パーマーが扮するアフリカ系の兄妹の姿が新鮮だ。

彼らは映画用の馬を育てているが、徐々に出演が減って収入がなくなり、牧場の馬を売り払うところまで追い詰められている。
子役でテレビ出演していたが、今ではテレビ業界を離れ、地方のテーマパークの管理人になっているアジア系のスティーブ・ユアンも含めて、非白人の扱いが示唆的である。
このあたりは、ゲットアウトと同様の、ジョーダン・ピールの味が出ているか。

序盤から中盤にかけて、展開はかなりジリジリとしている。
空に潜む何かが、徐々に徐々に姿を現すのだが、正直、恐怖表現としては、さほどでもない。
どちらかと言うと、これは一体どんな作品なんだ?という分からなさが興味を惹く。

終盤、脅威の正体が顕になった後も面白さは持続し、むしろ盛り上がるのだが、どこがどう面白いのか、ネタバレなしで説明するのは難しい。
これは、できるだけ知識を入れずに見た方が楽しめるかもしれない。

全体としては、変な映画!という感想に落ち着いた。
最後までスリルが持続するため、途中で退屈することはなかった。

[テーマ考]
今作は、他者から「見られる」ことの暴力性を描いた作品、と見ることができようか。
見せ物として「見られ」ていたチンパンジーによる惨劇。その視線の先。
映画史上初の、カメラの前の馬上の黒人の姿。
視線に怯える馬。
「見られる」ことを切望する、スティーブ・ユアン演じるジュープ。
空に潜む何かと視線の関係。
これをカメラの被写体として「見せたい」という欲望…。
見る、見られる、というモチーフは明らかに作中で頻出する。
このテーマに照らさなければ、必要性がよくわからないシーンもある。
ジョーダン・ピールが何らかの意図を込めたことは間違いない。

見られること、撮られることの中には、一種の暴力性が潜む、ということはわかるが、だからどうした?というのは、ちょっと今作からはわかり難かった。
アフリカ系やアジア系人種が、カメラの前ではステレオタイプのみを押し付けられ、搾取されてきた、ということを仄めかしたいのだろうか?
人種差別や格差問題は、前2作でも描かれたジョーダン・ピールっぽいテーマだが、今作では前2作ほどテーマ性がクリアでなく、抽象的だった気がする。

[まとめ]
新時代ホラーの旗手による、色々な意味で奇天烈なカルト作品。

ダニエル・カルーヤとキキ・パーマーをはじめ、キャスト陣の演技もなかなか印象的。
終盤活躍する、ブランドン・ペレアとマイケル・ウィンコットもいい味を出していてよかった。
チンパンジーや馬たちなど、動物たちの演技も良い。