サマセット7

イージー★ライダーのサマセット7のレビュー・感想・評価

イージー★ライダー(1969年製作の映画)
4.4
監督・共同脚本・主演は「地獄の黙示録」「ブルーベルベット」のデニス・ホッパー。
共同脚本・主演は「ダーティメリー/クレイジーラリー」「木洩れ日の中で」のピーター・フォンダ。

[あらすじ]
麻薬の密売で大金を稼いだキャプテン・アメリカことワイアット(フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)の2人は、ハーレーダビットソンに乗り込み、アメリカ西部から南部へ、謝肉祭を目指してアメリカ縦断の旅に出る。
大量のドラッグと酒をお供に、自由気ままに旅は続くが、奇抜な若者ファッションに身を包んだ2人に対して、行く先々の反応は必ずしも歓迎ばかりではなく…。

[情報]
1969年公開のアメリカ映画。
1960年代後半から70年代半ばにかけて隆盛したアメリカン・ニューシネマの代表作、とされる。

アメリカン・ニューシネマとは、60年代のカウンターカルチャー、ベトナム戦争の泥沼化、公民権運動などを背景に、反体制、反伝統的な若者たちを描いた67年から79年くらいまでの一連のアメリカ映画をいう。
1967年の「俺たちに明日はない」が先駆けとされる。
「反体制的な若者たちが、自由を謳歌するが、最終的に体制に抑圧されて滅びる」という流れが典型的。
保守的な映画のタブーを破っていく点に特徴があった。

ハリウッドにおいて1930年に生まれた自主規制、ヘイズコードは、1960年頃には既に形骸化していた。
アメリカ社会の変化についていけなくなった映画産業の地盤沈下に対応すべく、1968年に完全に廃止される。
その翌年、1969年公開の今作は、従来はヘイズコードで禁止されていた、麻薬取引、薬物の使用、殺人描写などを全編くまなく扱った。

監督・脚本・主演のデニス・ホッパーは、ジェームズ・ディーンの「理由なき反抗」の共演者として名を馳せるが、その後素行の悪さからハリウッドから10年ほど干されてしまう。
低予算映画を量産したロジャー・コーマン監督作品で復活し、今作共演のピーター・フォンダやジャック・ニコルソンとは、コーマン作品で出会う。
そして、今作の世界的ヒットにより、フォンダやニコルソンと共に、一躍時代の寵児となった。
監督のクレジットは彼1人だが、実際はかなりアドリブ的に現場の協議のもとで演出され、実質的に、デニス・ホッパー、ピーター・フォンダ、もう1人の共同脚本のテリー・サザーンの三人体制での共同監督、脚本、製作、というのが実態だったようだ。

テリー・サザーンはキューブリックの「博士の異常な愛情」の脚本家で、今作の主要なメッセージが込められたセリフは、主に彼の仕事とされる。

今作は、当時見た者に、非常に強い影響を与えた作品として知られる。
現代においても、60年代末を象徴する作品としてのみならず、映画史上の革命的作品と認知されている。

今作は西部から東南部へのロードムービーであり、60年代西部から南部にかけてのアメリカの風景がフィルムに刻印されている。
また、当時のアメリカの時代を彩った様々な風俗が次々と顔を表す作品でもある。
ドラッグ、ヒッピー、UFO、などなど。

今作の音楽には、ステッペン・ウルフ、ザ・バンド、ジミ・ヘンドリックスなど、当時の流行の最先端をいくロックが多数採用されている。

今作はたった34万ドルで製作されたが、全世界で6000万ドルを超える驚くべきヒット作となった。
アカデミー賞でも助演男優賞と脚本賞にノミネートされた。
批評家、一般観客ともに一定の評価を得ているが、どちらかと言えば、時代を象徴したことで、作品の内容や質を超えて伝説化した作品、という印象を受ける。

[見どころ]
何と言っても、その一度見たら忘れない、ハーレダビッドソン2台並走のルック!!!
フィルムにドキュメンタリー的に映り込む、60年代アメリカの風景と風俗!
若き日のジャック・ニコルソン、デニス・ホッパー、ピーター・フォンダら後の名優たちのアンサンブル!!
バイク2台に乗った3人がロックをBGMに延々と走っているだけなのに、感じる多幸感!!
真似した人が多かったのも納得!
ドラッグ!ファッション!マネー!
ストーリーは一見散文的だが、裏にナニカを感じ取れる。
ワイアットとビリーが象徴するのは、何なのか。
陽気な前半から一転、残り30分からの不穏な流れ。
有名なショッキングなラスト!!!

[感想]
アメリカの自由なんぞ、まやかしだ!!!
という反骨精神が、作品の内外に、何層にもわたって込められている。
一見シンプルなロードムービーだが、よく考えると、非常に重層的な作品と思えてくる

惹き込まれるのは、何といってもその特徴的なルックだ。
グラサン、もみあげ、星条旗をあしらった奇天烈なライダースジャケットとヘルメット!!
無口な男、キャプテン・アメリカ!!
グラサン、長髪に髭、怪しいネックレス、テンガローハット、怪しいブラウンジャケット!!多弁な男、ビリー!!
2人が乗るのは、改造されたハーレーダビットソン、すなわち、極めて特徴的な外観のフルメッキのチョッパー!!

このルックが、何よりこの作品を伝説的なものとした、といって過言でなかろう。
今作未鑑賞だった私ですら、イージーライダーと言えば、このルック、ということは知っている。
今作公開後、影響を受けた人が続出したという。

これらのファッションは、保守的な観点から見ると、何とも挑発的だ。
現に2人は、作中、そのヒッピー風ファッションから、行く先々で敬遠され、ホテルの宿泊やレストランでの食事も拒まれて、野宿を続ける羽目になる。
一見して観客も含め誰もが、視覚的に今作の反骨精神を感じるファッションになっている。

音楽使いも非常に印象的だ。
冒頭の麻薬取引シーンで流れるのは、ステッペンウルフの「プッシャー」!!
そのままだ!!(念のため、プッシャー、というのは麻薬の売人の意味)
2人の出発シーンでは、同じくステッペン・ウルフの「ボーントゥビー・ワイルド」!!!
60年代当時最先端のロックナンバーを惜しげもなく連発!!
思えば、ロックンロールこそ、反体制、反骨精神が本流だ。
今作は、ロックミュージックが全編に流れる。
これは、映画史上でも最初期の試みと思われる。挑発的!!

そして、ドラッグ!!
コカイン、マリファナ(大麻)、LSD。
今作は映画史上でも最初期の麻薬吸引シーンがある作品だ。
ワイアットとビリーは、しょっちゅう麻薬をキメている。
噂では、キャストやスタッフも、リアルにキメながら今作を撮っていたらしい。
デニス・ホッパーのアルコールと薬物の依存は有名な話だ。たしかにこの人の目はいつもキマッている。
60年代のアメリカの法規制は詳しくは知らないが、作中の描写を見るに、従来の倫理観からして、不健全かつ不道徳なのは間違いないだろう。
もちろん現代日本だと法的にアウトだ。

ファッション、音楽、ドラッグと、要素を集めるだけで、実に反体制的だ。
さらに主人公たちの行き当たりばったりの旅は、従来型ハリウッドの起承転結とか三幕構成といった「お作法」からはほど遠く、映画の構造自体が反体制的と言える。
その異質な印象は今観ても同様だ。

この映画のメッセージは、ジャック・ニコルソン演じる若い弁護士の口から主に語られる。
「奴ら何をビビってるんだ?」
「君が象徴しているものさ。君に自由を見るんだ」
まさしく、アメリカンドリームそのままに、大金を稼いだアウトサイダー2人は、「自由」を体現し、それゆえに悲劇的な結末を迎える。
自由の国を標榜するアメリカに、自由を象徴する2人は徹底的に否定される。

ラストの突き放されたような余韻は凄まじい。
「未知との遭遇」の撮影でも知られるラズロ・コヴァックスの撮影は、忘れ難い印象を残す。

全体として、好きとか嫌いとか、面白いとかつまらないとか、そういう次元を超えて、革命的、という印象だ。
いわゆるハリウッド式の、作り込まれた作品とは明らかに異質。
なるほど、これは歴史に残る。納得だ。

[テーマ考]
今作は、「アメリカンドリーム」を体現したアウトローが、その自由さゆえに、社会から許容されずに、終に破滅する作品である。
その意味で、伝統的アメリカ社会が、善きものとして賛美してきた「自由」とやらが、虚飾であったことを、厳しく糾弾する作品、と読める。

「お前たちが言う通り、"自由"にやってやったのに、その結果がこの仕打ちか!全部!全部嘘っぱちだったんだ!」と、でも言うような叫びが、セリフではなく、映像から伝わってくる。
ハリウッドに長らく受け入れられなかった若きデニス・ホッパー。
ハリウッドの大スターである父親ヘンリー・フォンダとの、根深い確執を抱えた、ピーター・フォンダ。
2人の来歴も、今作の反抗精神を裏付ける。
ワイアットが、薬物の幻覚の中、女神像に縋って泣く印象的なシーンは、実に象徴的だ。

しかしながら、今作のルックの強烈さや、映像と音楽の融合のもたらす多幸感は、むしろ「自由」への憧憬を掻き立てる。
そのアンビバレンツ。
魅力的なスローガンだからこそ、余計に罪深いのかもしれない。
アメリカンドリームというやつは。

[まとめ]
ハーレーダビットソンが印象的なロードムービーにして、従来的な映画の概念を根本から革新してしまった、アメリカ映画史上でも特に重要な名作。

若き弁護士ジョージを演じるジャック・ニコルソンの怪演が印象的だ。
酒を飲んだ後の「ニック!ニック!」って何なんだ!!?
前年公開の「2001年宇宙の旅」を連想させるセリフも、意味がわからない。
彼が奇怪なヘルメットを被り、ピーター・フォンダと二人乗りし、デニス・ホッパーと並走する「完成形」は、間違いなく映画史上に残る名シーンだ。

彼はこの作品で、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、華麗なるキャリアを歩み出した。
現在までに、アカデミー賞12回のノミネートと3回の受賞を誇る現代最高の名優になったことは、ご存知のとおり。
彼の最初の飛躍の作品、としても今作は見逃せない。