サマセット7

インファナル・アフェアのサマセット7のレビュー・感想・評価

インファナル・アフェア(2002年製作の映画)
4.5
インファナルアフェア三部作の1作目。香港映画。
監督はシリーズ通じて、「傷だらけの男たち」「頭文字D THEMOVIE」のアンドリュー・ラウとアラン・マックのコンビ。
主演は「LOVERS」「墨攻」のアンディ・ラウと、「恋する惑星」「HERO」のトニー・レオン。

【あらすじ】
香港マフィアの新人ラウ(アンディ・ラウ)は、ボスであるサム(エリック・ツァン)の指示で、スパイとして警察学校に潜入する。
一方、青年ヤン(トニー・レオン)は、ウォン警視(アンソニー・ウォン)の肝いりで、警察学校を退学したと偽装して、サムの組織に構成員として潜入する・・・。
10年の時を経て、それぞれ組織の中で信用を勝ち得たスパイたちだったが、麻薬取引にヤンの密告で警察の捜査が入り、ラウの連絡で検挙が失敗に終わったことから、警察とマフィア、両方の組織が、スパイの存在に気づいてしまい・・・。

【情報】
2002年香港公開の香港映画。
原題は「無間道」。
仏教用語で、絶え間なく責め苦が続く地獄を意味する。
英題も同義である。

今作は、香港ノワールの代表的作品と評されている。
1987年の「男たちの挽歌」から始まる香港ノワールの、復興的作品と言える。

主要キャストに、香港映画界を代表する名優たちを配している。
トニー・レオン(花様年華、ブエノスアイレス、恋する惑星)、アンディ・ラウ(暗戦デッドエンド)、エリック・ツァン(愛と言う名のもとに)、アンソニー・ウォン(人肉饅頭、ビーストコップ)は、いずれも香港版アカデミー賞と言われる香港電影金像奨の主演男優賞の受賞経験がある。

本作は国内外で大ヒットとなり、香港香港電影金像奨の作品賞、最優秀監督賞、最優秀助演男優賞を獲得、香港における賞レースを席巻した。

本作の脚本は、各国で高い評価を受け、2006年にはマーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン主演で「ディパーテッド」としてハリウッド・リメイクされた。
「ディパーテッド」は、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞を受賞し、スコセッシにとって唯一のオスカーをもたらした。

今作は、批評家、一般層両方から極めて高く評価されている。
香港映画の特集などで、必見の名作としてまず名前が挙げられる作品の一つである。
また、潜入捜査ものの映画の名作として、しばしば名前が挙げられる作品である。

今作のヒットを受けてシリーズ化され、三部作として、3作がリリースされた。
2作目は今作の過去のエピソードが、3作目は今作の前後のエピソードが描かれる。

【見どころ】
始めから終わりまで、息もつかせぬ見事な脚本!
香港映画界のトップスター、トニー・レオンとアンディ・ラウの、魂のこもった熱演!!!
潜入捜査ものの代表作にふさわしい、正体が判明すれば終わり、のスリル!!!
二人のスパイの、使命と情義、正義と友情、その葛藤!!!
そして、日陰に生きるものの、底知れぬ哀切!!!
これぞ、香港ノワール!!!!

【感想】
大満足!!!

今作初鑑賞かつ、ディパーテッドも未見だが、1時間40分、目が離れることなく一気見した。

構成としては、概ね三幕構成か。
ヤンとラウがそれぞれスパイとして警察とマフィアに潜入する導入は冒頭で効率よく伝えられ、第1パートの中心は、潜入して10年後の麻薬取引である。
この第1パートが、まず見事。
警察の情報はラウを通じてボスに筒抜けだが、一方のマフィアの情報も、ヤンを通じて警察に伝わっている、その二重構造のスリル!!
そして、スパイはそれぞれ、自分の工作がバレないように保身もしなければならない・・・。

セクシーなトニー・レオンも精悍なアンディ・ラウも、それぞれ独自の魅力でかっこいいし、演技も上手い。
組織のボス演じるエリック・ツァン、マフィアを負う警視役のアンソニー・ウォンも良い味を出しており、緊迫感が煽られる。

互いの組織にスパイの存在を悟られてからが、第2パート。
上司の疑いをかわし、信用を得て、表面上は、組織内に潜入ししたスパイ(つまりは自分自身)を探している体裁を取る。
しかし、裏では、自らの真に属する組織にもぐりこんだスパイを探し合う。
この複雑な構造に、脳が火を吹きそうになる。
このあたりの、自分が何のために戦っているのか、こんがらがってくる感覚は、まさに劇中で、キャラクターが体験している感情の追体験と言える。

無間地獄のタイトルの意味が明らかになる第3パートは、まさしく感情のジェットコースター。
いやはや、これはリメイクされるわけだ。

それにしても、ひとつひとつのシーン、ひとつひとつのセリフが、暗示的で、かっこいい。
「自分の生きる道は自分で選べ」
「何食わぬ顔で、こちらを見ている奴がいたら、そいつが刑事だ」
「あいにく、俺は警官だ」

ウォン警視とマフィアのボス・サムが劇中唯一顔を合わせるシーン。
演技も、セリフ回しも、かっこ良すぎる。
「イヌを送りこんだな!」「お互い様だ」
「死人と握手する奴がいるか?」

かっこいいけど、臭くない。絶妙なバランス。
何度も見返したくなること、確実な、名作だ。

【テーマ考】
今作は、潜入捜査官ものの決定版的な作品であり、「スパイの哀切」を最も効果的に描いた作品の一つであろう。

スパイの哀切、とは、突き詰めると、①使命と愛着の不一致、から来る、葛藤の苦痛、②そして、正体を明らかに出来ない故に、表に出ないまま、切り捨てられる者の悲哀、の2つに整理できるだろうか。

今作は、潜入捜査官のヤンと、警察に潜入したマフィアの構成員であるラウの鏡像関係にある2人の存在により、二重に「スパイの哀切」を描いている。

警察と犯罪者という関係は、善と悪の関係、あるいは法秩序の番人と反社会的な任侠、という倫理的な対立関係にあり、「より善くありたい」という価値観と、自己の置かれた立場との相剋が、さらに葛藤を強化している。
ヤンは、正義の心を秘めながら、悪人を演じることに疲れ切っており、一方のラウは、警察組織の一員を演じつつ、マフィアに情報を流すことに自分も自覚しないまま良心の呵責を感じている。
他方、ヤンはキョンら同僚にたしかな愛着を抱き、ラウはラウで、仮初の上司であるウォン警視を尊敬すらしている。

これらスパイの哀切が我々の胸を打つのは,人が誰でも、望む望まぬに関わらず、何らかの社会的役割を演じているからであろう。
ありたい自分と、周囲や社会が求める自分の役割は、しばしば一致しない。
公明正大に、誰もに胸を張って、生きられる者は幸福だ。
ほとんどの人間は、時に後ろ暗い思いを抱えながら、それでも役割を演じざるを得ないのだ。
夫、妻、親、子、上司、部下、男、女、富める者、貧しい者、貧しい者を食い物にする者…。
社会が押し付ける役割は、無限に存在する。

今作のタイトル及びストーリーが暗示するように、こうした葛藤や苦しみは、我々が生きている間続く。
まさしく、人生とは、無間地獄そのものだ。

今作は、普遍的な、生きる者の哀切を描いた作品、とまとめられるだろう。
だからこそ、「自分の道は、自分で決めろ」というセリフが、重く、深く響くのである。

[まとめ]
香港返還前に作られた、トップスター共演の、香港ノワールの代表作にして、潜入捜査官ものの決定版たる名作。

今作を目にしたからには、シリーズの2作目3作目や、リメイク版のディパーテッドも観ねばなるまい!!!
ヤンやラオの若き日がどう描かれたか。今作のその後はどうなったか。
スコセッシは今作をどう料理し、ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソンらは、今作のストーリーをどう演じたのか。
興味は尽きない!
楽しみだ!!