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NOPE/ノープのbutasuのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.0
普通に面白かった。「人食いUFOから逃げろ!」というB級映画以外何物でもない内容なのだが、さすがのジョーダン・ピール監督の手腕により一流のスリラーに仕上がっていた。

しかしこの映画で一番怖いのは人食いUFOではなく、人殺し猿である。あのチンパンジー、ゴーディが滅茶苦茶怖い。よく考えると「撮影スタッフどこ行ったんだよ」「動物対応のスタッフいるはずでしょ」などツッコミどころは多いのだが。それでも机の下で隠れる少年のあのシークエンスが、本作でも圧巻の恐怖シーンになっているのは間違いない。
だからこそ、このエピソードのせいでちょっと全体のバランスがとれていないようにも思えてしまった。「動物を刺激するとヤバい」「しかし落ち着いて対処すれば相手は所詮動物」的なことを示したいがためのシーンだったのかもしれないが、メインのUFOより全然怖いのだからどうにもしまらない。せめてあの少年を主人公にしているならまだしも、あの話だけが全体の中で酷く浮いてしまっている。せめて見せるのを中盤の1回にすればよいのに、冒頭から何回も意味ありげに出すから余計に本編とのつながりの薄さが気になってしまう。

まぁUFOも「人食いUFO」という字面で想像するよりはもちろんずっと怖かったが。吸い込まれている最中の、何だか赤っぽい色で狭いところを通りながら悲鳴を上げる人々のシーンはホラーっぽくてとても良い。冒頭の父親の死に方も意外過ぎてポカンとしてしまった。好き。

あと主人公が終始クールで格好良かった。ゲット・アウトのときもそうだったが、ダニエル・カルーヤは黙っているだけで存在感がある。妹は最初ちょっと鬱陶しかったが、段々良いヒロインになっていったと思う。

ビニール人形で停電している位置を把握したり、アイデアがとても良かった。終始繰り広げられる「見ている」「見られている」の対比の見せ方も面白い。

ただ観ていて人食いUFOの怖さが初めて分かるのはあのショーのシーンだったので、それまで序盤からずっと登場人物たちが過度なリアクションをしているのにはあまりついていけなかった。クライマックスも非常にスリル満点で楽しかったが、主人公たちは何かを守るために戦っているというよりもお金儲けのためなんだよな、とちょっと冷めてしまったのも事実。あと「アス」のときもそうだったが、この手のジャンル映画なのにいかにもな暗喩やモチーフが散りばめられているのは、気が散ってあまり好きではないかなぁ。そっちが描きたかったメインなのかもしれないが。

まぁでもこのいかにもB級な内容を現代でここまでのホラー映画として完成させたのは本当に凄いと思う。
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