butasu

ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

とても良かった。映画全体としての出来は普通だと思うのだが、何だかグッと心を掴まれてしまった。

勿論最大の要因は松たか子の凄さ。彼女の凛とした姿と人間味、強さと弱さを完全に併せ持つ圧巻の演技でこの映画は成り立っていると言っても過言ではない。ダメ夫の浅野忠信は相変わらずの存在感を放っていたものの本作ではだいぶ控えめな演技をしており、その分松たか子を際立たせていた。脇を固める嫌な弁護士の堤真一と純朴な青年の妻夫木聡も完璧だし、飲み屋夫婦の伊武雅刀と室井滋はさすが。広末涼子だけが浮いてしまっていて残念だった。

夫の大谷は一切同情のできないクズなのだが、それでも佐知(松たか子)があまりに"完璧な妻"として存在しているので、彼女に対し不安になったり甘えたり引け目を感じたり嫉妬したりと、自分を見失ってどうして良いものかわからなくなってしまう気持ちがさり気なく伝わってくる。万引きをした佐知を思わず救ったあのときから大谷は佐知に夢中で、大切にしたいと思うもののちっとも上手くできない。

そして佐知も、大谷に救われたあのときからもう大谷と離れられなくなってしまったのだろう。あんな男、さっさと見捨てて別れれば良いものの、佐知は大谷のために自分を犠牲にし、大谷が自分を見捨てたと知ると悲しみに暮れる。歪な二人がそれでも手を取り合うラストシーンは、堪らないものがあった。

映画のキャッチコピー「愛など信じたら、すべてが消えてしまうと、男は恐れている。全てを失った後に、残るのが愛だと、女は知っている。」が素晴らしすぎる。
butasu

butasu