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MEN 同じ顔の男たちのRenのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.5
一枚絵として美しく決める映像とキャッチーな設定で、まんまと観客を釣り上げるフェミニズムホラー。何これ?な展開にはなっていくけど、どんな恐怖を見せたいか・どう考えさせたいかはかなり分かりやすいので、感想を単に難解で片付けるのは勿体無い気がする。

夫の死を目撃した女性が傷心で向かった滞在先の田舎の洋館で、似通った顔の男たちに遭遇していく。
夫以外の男たちを同一の俳優が演じており、ヘアセットやメイクで雰囲気は変えているものの顔のパーツは同じという奇妙で不気味な世界観を構築している。もちろん単に気持ち悪いだけでなく、「(女性から見た)男性」そのものが恐怖の対象であることをある種キャッチーに示している。男性として生きている自分が安易に共感のポーズを取るのも違うが、女性からしたら「中には良い男性もいる」というエクスキューズ以前に相手が男性であるというだけで恐怖なのだと思う。

そこまで多くないロケーションと登場人物の中に、女性が日常的に男性に感じているであろう嫌なあるあるが詰まっている。おそらく劇中で起こることはハーパー(ジェシー・バックリー)が今まで受けてきた加害やハラスメントでもあるのだろう。彼女が男性と対峙する全ての場面がそうであると言っていい。同じ顔の男には、どの男の顔も代入可能な変数Xとしての機能もある。

男女の社会的・肉体的な性差から来る理不尽な恐怖の対象は生殖にまで及ぶ。妊娠や出産は男女がいるから成り立つ営みのはずなのに痛みと恐怖は全て女性が背負う、そのこと自体の「うわぁ....」感を示す、とあるミラーリング表現が強烈だった。加害側である男性を生むのは自分(女性側)であることの困惑や絶望。
ラスト15分はダークウェブを見ているようでちょっと露悪趣味にハンドルを切りすぎな感もあったが、今作の文脈でやらないと本当にただのダークウェブで終わってしまうのでこれで良かったのだと思う。

アレックス・ガーランド作品は『エクス・マキナ』と今作しか知らないけど、かなり視覚表現に優れた監督だと思う。今作の緑と赤の補色をベースにした色彩設計は美しさと不思議の国のような異界感を表すのに十分だし、異形のクリーチャーへの愛も伝わる。映画なのだから映像を作り込むのは当然だろうと、映像へのこだわりをナチュラルにやっている。

ジェシー・バックリーの起用もあざとく強かだ。彼女を認識したのはドラマ『チェルノブイリ』だったが(初見は『ロスト・ドーター』だけど当時は名前も顔も一致していなかった)、ここに来てジャンル映画の恐怖顔もきちんと映えることを証明した。前述の2作品でも母性を背負ったキャラクターを演じていてそういう配役の多い俳優のイメージがあるけど、ここから先の作品選びにもぜひ注目したい。

その他、
○ しつこく繰り返す林檎と、林檎の木の下で対峙する男女。地獄のアダムとイヴ。
○ 身内の死が原因の憔悴から逃れるために田舎に行く導入は『ミッドサマー』、「全裸(局部)イコール恐怖(面白い)」という価値観もアリ・アスター的でA24のカラーがとても濃く出たホラーだと思った。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










冒頭トンネルが塞がれた時点で、ハーパーは歴代彼女が受けた加害を再現する男たちしかいない最悪のエデンの園に閉じ込められたのではないか。
襲いかかる男たちは広い意味での「男」の象徴でありつつも、死んだハーパーの夫の再現でもある(手首の裂傷が似ている。男側の罪を棚に上げて彼女に責任を押し付ける態度が似ている)。彼女が男たちから/夫から受けてきた加害を一つひとつ捌いて(殺して)いっても次から次へと男/夫はついてくる。泥沼化した夫婦の拗れに対し「愛が欲しかっただけ」などと今更しょうもないことを言う夫を抹消して過去を清算したことでハーパーは地獄のエデンから脱出した。
友人が駆けつけた際に残っていた、大破した車だけは現実で起こったことだろう。ハーパーは見せられた幻想の中で男どもを捌いていくうちに、洋館の管理人(←彼は想像の人物ではなく実在している)を巻き込んで殺しているかもしれない....などと妄想してしまう。
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