煙草と甘いコーヒー

キル・ボクスンの煙草と甘いコーヒーのネタバレレビュー・内容・結末

キル・ボクスン(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

東洋経済オンラインの記事で取り上げられていて存在を知った映画。
評判が良いとのことなので、見てみることに。

娘がカミングアウトするシーン
娘の演技が素晴らしい 涙

彼女の演技は全体的に良かった。

そして、この映画のクライマックス
最後の決闘を終え、iPadで娘に殺しの現場を見られてしまったかも知れないと焦って帰宅した母親が、娘の部屋をのぞき、娘が寝ている(ふり?)ことに安堵する。

良かった、娘は見ていなかった

しかし、母親がドアを閉めようとすると、母に気付いた娘がベッドから起きてきて母に言う

「お疲れさま」(韓国語ではどう言ってるのか気になるが)

お疲れさま?!?!?
この時に母親の顔がなんともいえず良い!

見たうえで言っているのか、見てなくて仕事が大変だったんだなと思って言っているだけなのか、どっちなの???

(この映画は、どっちとも取れる見せ方を、監督が楽しんでいるご様子)

その後、娘がベッドに戻り、娘の部屋を後にしようとした母親が振り返り、小さく笑ってしまうわけだが、その時、母親は娘を見直したというか、娘の逞しさに自分自身が救われてしまったことが笑えてしまったのか。

なぜこんなにも思わせぶりで素敵なラストになったのか。

娘はiPadで母親と代表との戦いを見てしまい、考えもしなかった母親を目の当たりにし、相当なショックを受けて、でも目の前の母親がたぶん現実で、、、っていうか、得体の知れなかった母の本当の姿を知ることができて、今までの気持ち悪いほどの不可解な存在が、ストンと腑に落ちていき、霧や雲が晴れ、母を、理解できる存在として初めて捉えることができ、すごくスッキリしていったのではなかろうか、、、

本来なら、人殺しの母親なんて、嫌悪し拒絶すべき存在なのかもしれないが、果たしてそんなに単純なものなのだろうか。

人殺しは、たぶん一番やっちゃいけないことらしいけど、それを自分の母親がやってしまっていて、自分がクラスメートの男子を殺しかけた時にあれほど取り乱した母親が、人を確実に仕留めにいって、その結果殺し切っている、、、プロの殺し屋だったってことか、、、

母親が帰ってくるまで、今まで見事に自分を騙し通していた母親とのこれまでのやり取りのいろんなことを思い出しながら、少しずつ腑に落ちて、少しずつ落ち着いていって、母が家に着く頃には、だいぶスッキリしていたのではないだろうか。その吹っ切れとして、エピローグの授業中の恋人へ別れを告げるシーンが用意されていて、娘の不敵な笑いが、なんともいえず爽快に見えてしまうのだろう。

本当に怖いのは、殺し屋の母親よりも、すぐ近くにいて毎日一緒に暮らしているのに、その人物の核の部分がまったく感じることのできない得体の知れない存在の方の母親、ということなのかもしれない。

そう言えるのは、あくまでフィクションだからなのか、はたまた、現実世界でもそうなのか、、、

母親に限らず、身近な存在、すべてに置き換えてみると?

そして、殺人ほどではなく、詐欺や窃盗、薬物、売春などなど、親に言えない、人に言えないことをやっていた場合は?

気になるところである。