皿と箸

LOVE LIFEの皿と箸のレビュー・感想・評価

LOVE LIFE(2022年製作の映画)
4.3
矢野顕子の「LOVE LIFE」を劇中いかに完璧なタイミングで流すか、というなかなかに監督のフェティッシュな欲求に駆動されて作られた本作。当然ながら深田監督作な訳なので、そもそものクオリティが高く、高次元の洞察を味わえる傑作となっている事は認めざるを得ないのですが、個人的には過去作と比較すると好みの問題かもですが、やや脚本・演出に力技感を感じてしまい、少し没入感を失わせているなという印象です。

特に、自分の部下を使って風船やらプラカードまで用意して親父の誕生日祝わせるシーンや、自ら逃げた負い目を抱えている人間が葬式にいきなり現れてビンタするシーンなどは文脈含めて唐突な印象があり、気になりました。
その辺りの飛躍的な演出部分が「淵に立つ」や「よこがお」などは、いい意味で登場人物の精神世界を描くファンタジーとして幽玄な印象を醸し出せていて全体のテンションと合っていたのですが、今回は個人というよりは舞台設定とそこにいる人々の関係性が主題になっている分、あくまでも現実世界の延長として理解しようとする観客に対して、やや後付け的かつ大味な飛躍を見せる展開だなとは感じてしまいました。

一方で義父義母の社会的には「善き人でありたい」という願望と抑えきれない個人としての情念とがコンフリクトしながらも妙子との距離感を少しづつ縮めていく様はこの映画の白眉でもあると思います。

そして元旦那のパクというキャラクターが出てきて以降は、息子の死に対する現夫と元旦那の感受性の対比がそのままLOVEとLIFEという対比に繋がり、出来事に対する解釈や振る舞いを共有できない残酷さや翻って喜びをを描いていきます。
と、そこまでは文脈的に良くできた話しではあるのですが、そこからそれぞれのキャラクターが主観的に思い込んでいたり、信じていたものが滑稽なまでに呆気なく裏切られ、崩れ落ちるラストは笑える位に逆説的であり、同時に生物としての人間の取るに足らなさが「猫」に託される事によって解釈が一歩先に進んでいると思います。

人間は無意識に自分の論理や感情を勝手に相手に仮託して値踏みしているところがあるからこそ「裏切られた」という感情が湧くわけですが、圧倒的なまでに相手との距離を痛感する経験を通じて相手を猫のような動物としての理解不可能性を前提として認識した時に初めて「目が合う」というささやかな希望が描かれるエンディングは示唆に溢れた素晴らしい終幕でした。分かり合えるという前提に深く傷つくくらいなら、分かり合えなさに希望を見出す事も出来る。

そこにLOVELIFEの「どんなに離れていても愛する事はできる」「もう何も欲しがりませんから、そこに居てね」「かなしみさえ、よろこびにかわる」という歌詞の意味が染み渡る。
これで映画としては完成されたとも言えます。
映画がプロパガンダ性から逃れられないものだと意識している深田監督の慎ましさからくる反転性、逆説性への意識が極まった作品と言えるのではないでしょうか。
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